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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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フーヴァーの決断

皇紀2590年(1930年) 11月8日 アメリカ合衆国 ワシントンDC


 在天津列強会議が集団安全保障(カルテル)を結んだことはアメリカ合衆国にとって大きな衝撃を与えた。


 従来、アメリカ合衆国は列強に対して支那における機会均等、門戸開放を建前とする外交方針を取っており、共和党政権になってから民主党政権ほど熱心ではないが基本方針は維持されていたことから列強の結束は外交的ダメージとなっていたのである。


 在天津列強会議の集団安全保障(カルテル)はあくまで防御的性質が強いものであると国務省が分析を出してきてはいたが、彼らはチャイナロビーによる影響もあるため中立的な分析とはとても思えないものを寄越してきていた。その為、ハーバート・フーヴァーは大統領として国務省の出してきた分析と行動基本方針案に難色を示していた。


「ヘンリー、君はこれをどう思うかね? こんなものを実行などしたらチャイナの情勢は悪化するのは誰の目にも明らかだと思わないかね?」


 ホワイトハウスの執務室に呼ばれていた国務長官ヘンリー・スティムソンはフーヴァーから意見を求められたが明確な回答はしない。


「大統領、判断するのはあなたです。国務省のスタッフは国益を考えて出してきているものと考えますが……」


「私は君の考えを聴きたい。どうなんだね、国務長官として外交を預かる君の判断を言い給え」


「確かにこの案を採用することは国際緊張を高めることになるでしょう。それどころか列強との対立構図を深化させかねない。特にジャパンとの対立は不可避となりましょう……」


「そうだろう……今、ジャパンは移民さえも出戻りしているほどだ。おかげでカリフォルニアでの排斥運動などは沈静化して対日関係は改善しつつある。尤も、経済関係では対日輸出が増えておるから資本家たちもこんなことをしでかしたら反政府の狼煙を上げかねん」


 フーヴァーにとって世界恐慌を鎮静化したいが未だアメリカ国内景気は沈滞したままであり、東部工業地帯からの日本への工業製品輸出が一定需要を満たすものであるだけに対日関係の悪化など避けたいものであった。


 特に精密機械やプラントなど大物の取引が増えていることもあり、ある意味では対日輸出だけが好調であり株価や工業指数を吊り上げる材料であり、これに規制をかけるような外交政策など論外であるとすら思える。


「だが、国務省は対日輸出の制限、張学良と蒋介石を引き合わせる、チャイナの銀を買い取ることで蒋の南京政府を支援せよ……と言って来ておる。これは明確に戦乱を招く行為だ……今のチャイナの分立秩序を崩壊させかねない」


「だからこそ、イニシアティブを発揮せねばならないのですよ。大統領、私は列強、特にブリテンの復活のチャンスを与えるべきではないと考えております……今やジャパンとブリテンがチャイナを分割して植民地化を図っているのは明白ではありませんか、我々もチャイナに介入すべきなのです」


「ヘンリー、君は共和党員だろう? 民主党員みたいなことを言わんでくれ給え」


「いいえ、我々は傍観者であってはならないのです……もし国務省のそれを受け入れないのであれば、最低でも艦隊の派遣を提案したいと思います。我々のプレゼンスが列強やチャイナに正しく伝われば彼らとて自重するでしょう」


「わかった……ヘンリー、その方向で検討しよう……海軍とも調整して効果的かつ抑制的な範囲で艦隊を派遣しよう……」


 スティムソンは頷くと足早に執務室から退去した。彼のやるべきことはもうこの部屋にはない。彼も国務省の提案は全面的に採用すべきではないと思ってはいるが、かと言って全く手を打たないというのも問題だと思っていた。だが、フーヴァーが艦隊派遣による軍事的プレゼンスによる外交圧力という判断を下したことには安堵していた。


――これで極東のバカ騒ぎが治まれば良いが……。


 玄関ホール前に寄せられた公用車に乗り込もうとしたが、曇り雪のちらつく寒空をふと見上げてから彼はそう呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] フーヴァー大統領は支那の問題に対しては消極的だが部下のヘンリー・スティムソンは積極的に介入して引っ掻き回したいようですね。一応何もしないのも問題だからと列強に対して牽制役として艦隊を派遣する…
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