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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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集団的安全保障

皇紀2590年(1930年) 10月30日 帝都東京


 天津駐屯の支那駐屯軍から張軍閥の演習中に起きた狙撃事件の報告が陸軍省・参謀本部へ入ったのは30日の午後だった。


 というのも、支那駐屯軍は張軍閥支隊と交戦していたため報告を出す余裕がなかったのである。29日の早朝に突如として日本租界にある駐屯地に迫撃砲弾が撃ち込まれ、緊急出動すると同時に駐屯地付近で激しい銃撃戦を繰り広げることとなった支那駐屯軍だったが、日々訓練として野戦築城を行っており、駐屯地そのものが簡易的な要塞として機能する状態となっていたことから被害そのものは大きくなかった。


 二重の塹壕と有刺鉄線による妨害、所々に設置された監視哨兼用の機関銃陣地が存在し、また星型の多角要塞状に野戦築城されていたこともあり列強水準ではない二線級に過ぎない張軍閥の私兵集団は無残にも一方的に蜂の巣にされるだけであった。


 天津に租界を持つ大英帝国、フランス共和国、イタリア王国、ベルギー王国は揃って北京北洋政府に抗議を行い張軍閥に天津から20km以遠へ退去するように求めると北京北洋政府は寝耳に水と言える状況に驚くばかりで有効な手を打つことは出来なかった。


 列強公使団は埒が明かないと苛立ちを見せる中に張学良が現れるや列強公使団に向けて言い放ったのである。


「阿片密売と製造をしていることが明白となった日本人に懲罰を与えただけである。日本と行動を共にするならば天津の租界は実力で奪い返すまでである。数十万の兵を相手にいくら列強であっても持ちこたえることは出来ぬであろう?」


 張の脅迫は北京北洋政府の要人たちを震え上がらせたのである。


 自分たちのあずかり知らぬところで勝手に軍事行動をするばかりか自分たちの後ろ盾であり経済的支援者でもある列強相手に喧嘩を吹っ掛けているという事態におろおろとするばかりであった。


「我々の権益である租界を踏みにじるというのか?」


 列強公使団からは口々に反発する。だが、軍事的な劣勢は明らかであり、頼みの綱は関東軍と日英の海軍力であった。だが、天津からはかけ離れている。


「それは諸君ら次第だ。我々は猶予を与える。日本の様に悪行に手を染めているのであれば改めることだな」


 張はそれだけ言い残しその場を立ち去る。だが、彼の残した置き土産は北京北洋政府の要人たちを強気にさせるという効果を発揮していた。


「我々はなんら恥じ入ることはない。列強が正しき振る舞いをするのであれば許容しよう。だが、そうでなければ……」


 この瞬間、列強公使団は交渉が決裂したことを悟った。そして、心に刻んだ。


――眠れる豚如きが我ら白人に楯突くというのか……ならば、それ相応のもてなしをしてやろう。


 列強公使団が引き上げた後、大英帝国租界内において在天津列強会議が開催され、大日本帝国の北京公使と天津総領事も呼ばれることとなる。


 そして、その日のうち在天津列強会議は以下の事柄に同意した。


 1、上海同様に列強権益の保全を目的に共同歩調を取ること

 2、支那各勢力からの攻撃を受けた際も共同防衛を行うこと

 3、日英海軍は列強租界を防衛するため海上交通の安全を確保すること

 4、武力衝突が発生した場合、大日本帝国は迅速に派兵を行うこと

 5、締約国は大日本帝国に派兵の対価を支払うこと、また便宜を図ること


 後日、現地外交官らが独自で行動したことは本国から批判が集まることとなったが、財界人を中心に支那権益の利益を享受する層が支持を表明したことで天津における集団安全保障(カルテル)は有耶無耶の内に既成事実化してしまったのである。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 幣原外交によって足並みを乱しまくった史実とは大きく乖離したなぁ~ まさか、朱徳は張と組んで踊り出す?
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