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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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自縄自縛

皇紀2590年(1930年) 8月7日 帝都東京


 正統ロシア帝国の駐日大使館において密談が行われている頃、帝国海軍も同様に一部の人間が会合を持っていた。


 海軍省の会議室には扇風機がいくつか設置されている。窓は全て開け放たれていることもあって蒸し暑さは幾分か和らいでいるが居並ぶ高級軍人たちの額には汗が染み出ている。


「それで、合衆国海軍の新型重巡の情報は判明したのか?」


 上座に座る海軍大臣大角岑生は報告を促す。


「はい、まず2月に起工した艦は建造中止となったことは間違いありません。ですが、再度工事が始まったようです……合衆国政府の公表と資材など断片情報から推測される分を加味しまして以下の数値になるかと……」


「基準排水量14000トン程度、主砲8インチ3連装3基、速力30ノット以上、機関出力12万から15万馬力程度……推定装甲厚舷側5インチ……」


 担当官からの詳細な報告が上がる。その数値に居並ぶ将官の殆どは頷きをみせる。


「概ね、想定の範囲内だな……しかし、主砲口径が控えめであったのが驚きだ」


「確かに、英超巡が10インチ、独襲撃艦が10インチないし11インチだと言われていることから同様の主砲口径にすると思ったが……」


 隣り合う将官同士が口々に感想を述べあう。


「いえ、続きがありまして……」


「なんだ、早く言い給え」


「それが、現地のスパイからの報告では既に8インチ砲身が規定数の製造が出来ている為再利用したということであります……そのためこの艦は我が海軍の夕張型の様な実証試験艦もしくは古鷹型の様に主砲交換を前提としている可能性があります」


 担当官の報告に将官の表情が変わる。


「主砲交換だと? だとすれば10インチか?」


「10インチは無論可能であると思います。また、速力を多少犠牲にするならば12インチや14インチも搭載可能であると試算は出ております」


「ただ、この艦であまり冒険をすることはないと思いますので、10インチが妥当だと艦政本部では試算しております……しかし、気になる情報がありまして……」


「結論から言い給え、合衆国海軍の出方によっては我々も自粛している巡洋艦の建造方針を変えねばならん」


 もったいぶった担当官に大角は苛立ちを感じ怒鳴った。


「はっ、現在、ポートランド級代艦と呼ばれているこの艦は2隻建造となり、続く仮称ニューオーリンズ級が計画されていたのですが……それが計画中止となったとのことでありまして……」


「では、合衆国海軍の重巡建造は白紙となっているのか?」


「はい、現在確認中ではありますが、同様に空母1隻の建造中止という情報も入っております……これらは恐らく重巡建造白紙の影響で合衆国海軍の建造計画そのものが変わっているのではないかと考えられます……また、新型軽巡の建造計画は先日報告しました通りのもので、6インチ砲3連装5基の1万トン級軽巡であることが確認されました。総数は14隻を予定しているとのこと」


 担当官の報告はほぼ正確なものであった。これにはアメリカ国内に潜伏している甘粕正彦率いるA機関の情報網で得ている情報で補強されているからだが、帝国海軍も大角が大臣に就任してからスパイ網の構築に力を入れていることで確度の高い情報を得ることが出来ているためである。


「14隻だと?」


 大角はその隻数に反応を示す。


「はい、14隻です。重巡建造の白紙化による造船所への救済措置ではないかと思われます」


「わかった。下がってよい」


 大角の指示で担当官は会議室から退出する。


――ブルックリン級軽巡は7隻のはずだ……どういうことだ? それが倍増? では、重巡はどうなる?


「大臣、気分が優れませんか?」


 副官が心配そうに気遣う。


「いや、大丈夫だ……しかし、合衆国海軍が軽巡を増勢するとは……これでは我が海軍の軽巡では明らかに能力不足になるな……誰か何か策はないか?」


 流石に大角の無茶振りにすぐに答えることが出来る者はいなかった。いや、正確に言えばある。誰もがわかるがゆえに誰も言わないだけだ。5500トン級軽巡の全廃と新型軽巡の量産を行えば良い。


 だが、それは建艦計画の大幅な見直しにつながる。また、強力な艦を一気に建造した場合、列強の疑念を生む。特に建造自粛を表明している大日本帝国が大量建造をすることの影響は大きい。単純に老朽艦の代艦建造というわけにはいかない。


 そう、軽巡と言えど、立派な主力艦の一員だ。列強は代艦建造と簡単に認めるわけがないのだ。


「自粛という名のカラクリで自分の首を絞めてしまったな……」


 大角の自嘲の弁に居並ぶ将官は皆揃って苦い表情をするだけだった。

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