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帝都密談<1>

皇紀2581年(1921年)10月27日 帝都東京


――さて、新居に落ち着いたのは良いけれど……。これからどうしようか……。


 独り言をつぶやく人物はこの時代に転生した歴史改変者……有坂総一郎である。


 彼はこの時代に転生してからメタ情報を用い、高騰する株式市場によって巨額の資産を構築、それを今度は恐慌によって破綻した新興企業を買収統合することで比較的短期間で造船業と重化学工業を中核とする有坂重工業を構築した。


 買収統合する過程でアメリカ合衆国、大英帝国、ドイツ=ワイマール共和国などの精密機械、工作機械を大量に導入し、これらをリバースエンジニアリングにより順次内製化していき、国産化の目処を付けたのである。


 これには恐慌によってあぶれた技術者や大学の研究者などを大量雇用したことによる成果ではあり、彼らはリバースエンジニアリングによる構造解析と製造技術確立に多大な貢献をしたことで、従来、列強から輸入することで成立していた軍需、民需両方の機械需要を満たすことになるが、それはまだ先の話である。


 彼の記憶ではそもそも大日本帝国は基礎工業力そのものが列強からの借り物状態であったことが根本的に問題であり、あれもこれも同じ旋盤で造るという明らかに効率を無視している呆れるばかりに無駄な製造現場が総力戦、国家総動員という非常事態に適応していなかったこと……そして、それを開戦を覚悟していながら対応することすらしなかった帝国政府、軍部との関係でいくらか情報を得ていたはずの財界の無責任体質によるものだと考えていた。


 そのため、基礎の基礎であるマザーマシンの国産化と大量配備が国力の増強には何よりも重要であると優先して構築することとしたのである。


 その方針に沿って彼は有坂重工業を設立、研究者、科学者、技術者を囲い込み、国産量産体制構築を進め、全ての準備が整ったのが今月のことであった。全ての準備が整った彼は、上京し、海軍を退役し中島飛行機を設立した中島知久平を訪ねることとしたのである。


 もっとも、中島を訪ねるにしてもタイミングを計る必要がある。そのために彼は上京し、新居に落ち着くと精力的に財閥系企業に売り込みをかけると同時に陸海軍の工廠など製造現場に現物を提供することで実際に活用してもらうことで顔を売り、評判を高める算段をしていた。


――まずは張作霖爆殺、満州事変と続くであろう大陸対応用に陸軍とのパイプを作って三八式歩兵銃を自動小銃化するか、一〇〇式機関短銃の前倒し量産と正式化を進めるべきだろう。


――そうすると……陸軍省に太いパイプが必要だな……いや、確か今年の7月には陸軍技術本部が自動小銃の研究を開始している筈だ……ならば、技術本部長の宮田太郎中将を訪問するか……史実通りならば、彼は日露戦争の経験から技術畑に転身して工廠など製造現場を経てその指揮監督をしている……よし……。


 彼は考えがまとまるとすぐに行動に移すこととした。


「結奈!」


 彼は書斎から廊下に出ると妻の結奈が居るであろう台所の方へ叫んだ。


「なにかしら?」


 予想通り、彼女は台所から顔を出して返事をした。


 総一郎は結奈の居る台所へ向かった。


「今夜の予定はどうなってる?」


「今夜は三菱の重役方を接待なさるのでは?」


「明日は?」


「明日ですか?えぇと……」


 結奈は秘書も役割を果たしてくれているので、スケジュール管理は全て彼女へ丸投げしているため、総一郎は彼女を通してからでないと自分の予定がわからないのである。


「明日の昼は予定がいくつか入っていますわね……夜は……あら?空いていますわね……」


 彼女はスケジュールを確認してから答えた。


「わかった。では、先方の都合次第だが、明晩は陸軍中将殿をお呼びするから失礼のないように手配をしてくれないか?」


「陸軍さん?珍しいですわね?」


「あぁ、でも、技術畑の人だから、参謀本部とかのああいう連中とは違うと思うよ……まぁ、失礼のないようにだけしてくれれば大丈夫だろう」


「ええ、そうね……では、明日は陸軍さんの接待と……」


 そう言うと結奈は台所を出ていった。彼女は彼女でやることは多い。接待をするのであるから綺麗どころの手配や料理の手配など色々差配するのは彼女の仕事だ。


――あとは陸軍省へ電話をかけて中将殿を呼ぶ算段を付けないとな……。

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