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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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使い捨ての操り人形

皇紀2590年(1930年) 7月15日 帝都東京


 斎藤総督遭難から帝都各所には歩兵第一連隊だけでなく、近傍の歩兵連隊が応援に駆け付け警備を実施している。また、東京憲兵隊も総動員状態であり、内務省や警視庁も同様に帝都の平穏を守るために総力を挙げての警備態勢を取っていた。


 当初、参謀本部は即時戒厳令を布告し、帝都を封鎖することで不穏分子に備えようと動いていたが参内した陸軍大臣宇垣一成大将が陸軍省に戻るやいなや参謀総長金谷範三大将と教育総監武藤信義大将を陸軍省へ召喚し会議室に閉じこもった。


「陛下の意志は臣民の安寧であり、”この帝都で不穏な事態が起きていない以上は戒厳令など布告する必要はない。ただし、臣民に害意あるものたちからこれを防ぐのが務めである”と仰せになられた……ついては要所警備を行い、内務省、警視庁と協同し事に当たるべきと本職は考える」


 宇垣は安易に戒厳令を出すのは国民生活に負担が多いとの聖慮を金谷と武藤に告げるが、彼らは難しい表情をしてすぐに賛意を示さなかった。


「大臣はそう言うが、この帝都で次に誰が狙われるかわからんのだぞ?」


「左様、仮に閣僚らが狙われずとも東海道本線や東京駅で爆弾テロでも起こされては遅い。徹底した検問と行動の制限を行うべきである」


 宇垣もまた彼らの言い分は尤もだと思ってはいたが、聖慮を蔑ろには出来ない。


「参謀総長、戒厳令の準備は出来ているのであったな?」


「第一連隊は既に帝都の要所に配置済みだ。いつでも戒厳令を出せる。第二連隊も移動中だ」


「朝鮮軍はどうなっている?」


「朝鮮全土に戒厳令を出している。第19師団は北鮮を……咸興や平壌を中心に配置されている。第20師団は京城や釜山を中心に配置済みだ……追って関東軍から増援を送り鮮鉄の防衛に当たらせる手筈だ」


 宇垣は金谷から状況を聴く。


「上海の方はどうだ?」


「あぁ、そう言えば大韓民国亡命政府だか正統政府だか名乗る犯罪集団があったな」


「最近は活動が活発化しているという……まぁ、阿片と女衒と春画の商売が忙しいらしく羽振りが良いみたいだと上海憲兵隊本部からは報告があったと聞いたな」


 武藤がそう言うと宇垣は頭を抱えた。


「奴らの目的は内地で何かを起こすことではないだろう……騒ぎを起こすことが目的であって標的がたまたま斎藤総督だったということなのだ。内地には朝鮮人は入ることが出来ないこととなっているだろう……例外は朝鮮貴族くらいなもので……」


「いや、その内地の朝鮮貴族はその殆どが帝都にいるではないか!」


「手引きをするとしたら奴らではないのか? 連中は第二回万国平和会議(ハーグ密使事件)で前科がある……」


 陸軍三長官の認識は一つにまとまった。


「参謀総長、憲兵隊と協力して朝鮮貴族の拘禁を頼む。連中を抑えれば帝都で何か起こすことは出来んだろう……何かしていたならば吐かせれば良い」


「了解した……だが、念のため要所警備は行わせておく」


 事件発生当初に三長官会議における方針が確定した後、陸軍はすぐに動き、帝都各所を厳重警備することとなったのだ。その結果、朝鮮貴族の殆どが逮捕され、実際に帝都における犯行を事前に抑えることに成功したのであった。


 そして15日、朝鮮貴族たちから一人の人物の名が出てきたのであった。


「帝都における騒擾を持ちかけたのは……前義親王、李堈である……某国の支援がある……臣民たちも付いてきてくれる……日本が満州に目を向けている今が好機だと……」


 この情報に接した憲兵の一人はこう呟いたという。


「使い捨ての操り人形ではないか……そのことにすら気付けぬとは……」

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