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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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英超巡、出航す

皇紀2590年(1930年) 7月14日 大英帝国 シンガポール


 東洋の真珠と言われるシンガポール……軍縮条約によって軍備制限や要塞化の禁止など太平洋上の無防備化が約されたが、ここシンガポールは別扱いとなっていた。


 無論、日本包囲網の拠点とすべき要衝であるからに他ならないが、だが、今は対日戦略というよりは対支那戦略の拠点として機能していた。


 それというのも最前線である香港の要塞化を大英帝国は当然のこととして進めていたがあまりにも支那と近接し過ぎ、やろうと思えばジャンク船を大量に投入して損害無視で攻め込むことが出来る距離であり、いくら防備を固めようが限られた土地、しかも水源にも乏しい香港がいつまでも保つとは思えないという現実的問題から極東における策源地としてシンガポールの重要性はここ数年で急上昇していた。


 また、それは大英帝国政府や英軍だけが認識しているわけではなく、香港や上海に拠点を置く資本もまた危機感を抱き、当面最も安全な場所としてシンガポールや長崎・下関・門司に拠点を移していた。


 シンガポールだけではなく長崎などが選ばれた理由は日英同盟時代から続く総領事館、領事館があること大英帝国海軍(ロイヤルネイビー)の寄港地であるという安心感、自国のP&Oや大阪商船などの大陸航路が充実していることからである。


 さて、シンガポールに話を戻そう。


 今、このシンガポール・セレター軍港では大英帝国海軍(ロイヤルネイビー)ご自慢の新鋭超巡『インコンパラブル』が出港準備を整えているところであった。


 東洋艦隊に配属されたばかりのインコンパラブルは未だ慣熟訓練航海中ではあったが、朝鮮総督斎藤実大将の遭難という事態に急遽シンガポールへ寄港し、上海へ向けて出撃を命じられたのであった。その命を受けての寄港と救援物資の積み込みを行っていたのだ。


「全く、コリアンは何を考えているのかわかりませんな……」


 航海艦橋で指揮を執っていた艦長は入室してきた提督に向かって敬礼をしつつ言う。その表情にはいくらかの侮蔑が入っていたのは仕方がないと言えるだろう。


「艦長、君の心情はわからんでもない。第二回万国平和会議(ハーグ密使事件)の時に君はハーグに赴任していたのだったな」


 提督は艦長が当時の事件でその場にいたことを思い出し苦笑したが、すぐに表情引き締める。


「だが、まぁ、こうしてまた彼らが自分たちの立場を弁えずに愚かしい真似を企てて実行した以上、今度は火遊びで済まないかもしれん……未だジャパンは目立った動きを見せていないが、彼らが不気味なほど静かな時は何かをしでかそうとしている前触れだと言えるだろう……」


「ええ、そのために本国はすぐ動ける我々を出撃させるということなのでしょう。しかし、グルカ兵を投入するというのはやりすぎなのでは?」


「いや、そうでもない。上海の亡命コリアンが蠢いていて上海要塞にチャイニーズとともに雪崩れ込んでくる可能性があると本国から警告されているのだよ。その時に彼らグルカ兵は役に立つことだろう」


 艦長は複雑な表情を浮かべた。


「憎まれるのはインディアやグルカ兵だと……本国の連中が考えそうなことですな」


「まぁ、そう言うな。それが帝国システムというものだよ。その帝国システムこそが我が大英帝国(グレートブリテン)の富の源泉なのだからね。さて、無駄話はこれまでだ、今夜までに出航出来そうかね?」


「1800には出航可能です」


 居住まいを正した艦長が報告すると提督は満足そうに頷く。


「今夜のディナーは豪勢にするように命じておきたまえ、休養なしの航海だ。兵たちの士気を高めておかねばならん」


「皆喜びましょう」


 提督の気遣いに艦長は笑みを浮かべた。

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