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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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地球の裏側

皇紀2590年(1930年) 米東部時間7月13日 アメリカ合衆国 ワシントンDC


「それで、アドミラル・サイトウの容態はどうかね? ジャパンのコリア統治に揺らぎが出てくるのか? どうなんだね、国務長官」


 米大統領ハーバート・フーヴァ―はホワイトハウスの執務室で葉巻をくゆらせながら思い出したかのように尋ねた。


 その日、彼は国務長官ヘンリー・スティムソンを呼び出し、外交上の問題を協議していたのだが、昨今の列強との関係は冷え切っていたこともあり、大英帝国にすら「貴国の提案は検討に値するが時期尚早、我が大英帝国は貴国発の大恐慌の後始末でとてもではないがその提案に乗ることは出来ない」と嫌味を言われて追い払われる始末で、二人して頭を悩ませていたのだ。


「トーキョーの大使館は沈黙して情報を寄越してきません。ケージョーの領事館は戒厳令が発せられたと……それによって外出が出来なくなったため情報収集が出来ないと報告が来ておりますが……それ以外は何も……」


 スティムソンは両手を広げ首を横に振る。


「何の発表もないのか?」


「ええ、何もありません。生死はおろか戒厳令が出て以来ジャパンは何のアクションも起こしていないのです……以前であれば軍を動かしてテロリストとその支援組織を潰しにかかっていたでしょうが、今回はそれすらありません」


「在外公館が仕事をしていないだけではないのか?」


「まさか、彼らはプロです。そんなことはしませんよ。ワシントンに詰めているどこぞの大使館の連中とは違います……」


「君は国務長官就任とともにMI-8を閉鎖したではないか、であるというのに最近になって復活させて他人の手紙を盗み見る悪事を働いている割によく言うな」


 フーヴァーはスティムソンの変節を揶揄する。


「以前の私なら”紳士は他人の手紙を盗み見る真似はしない”と言ったでしょうが、軍縮会議であれだけ虚仮にされては考えを改めなくてはなりません」


 スティムソンが暗号解読による情報収集をやめたことによって軍縮会議は史実とは異なり大きく後退することとなった。結果として列強が裏で結託したことで軍縮という看板を掲げつつ各国は海軍戦力を充実させるという摩訶不思議な状態となってしまった。


 無論、その結果は合衆国海軍にとっては望外の利益であり、16インチ砲搭載戦艦を4隻保有するに至り、列強の中でも砲戦力で圧倒的優位に立っていた。これは合衆国海軍をして「合衆国海軍は両洋において同時に戦争が可能になった」と言わしめるに至る。


 大艦巨砲主義真っ盛り、いや、史実よりも戦艦戦力が急速に拡張されていく状況に軍縮会議の意義を問う者たちは溜息を吐くばかりだった。


「軍縮会議で我々は大いに出し抜かれました。大英帝国と協調して合意に至った件ですら反故にされ、戦艦は世界中に拡散……南米各国も国力を上回る戦力を手に入れてしまった。一国が保有しているなら兎も角、ブラジル、アルゼンチン、チリ……三ヶ国が旧式と言えど列強以外では十分な戦力になる戦艦を手に入れたことは合衆国の裏庭とも言われた南米の失陥を意味するに他ならない……これを認めざるを得ない状況に追い込まれたのは我が不覚……故に悪事に手を染めてでも為すべきことを為すのです」


 スティムソンの表情は苦々しいものだった。だが、フーヴァーにとっては自業自得でしかないと思えた。理想で国家を統べることなど出来ない。実際に自分もまた経済政策という国家の舵取りに失敗し崖っぷちである。同じ失策をしている存在がいるのであれば批判もまた分散する。そのため責任を問うような真似も責めることもしない。


「まぁ、君がそう学んで外交にあたるのであればそれでよいと思う。問題は極東の安定だ……国際社会はマンチュリアをジャパンに委ねると決めたのだ。我が合衆国の資本家たちも有望な市場と考えてマンチュリアに進出を始めている。政治は兎も角、経済ではジャパンとの関係は重要であり、その資本家を守る存在であってもらわねばならん……だが、不気味な沈黙を続けているではないか」


「トーキョーが当てにならないのと同様にマサチューセッツ通りの連中が何かを知っているとは思えませんが、見舞いを理由に出向いてみようと思います……慌てて本国に何か打電するかもしれません」


「あぁ、そうしてくれ」


 スティムソンはフーヴァーに一礼すると執務室から退出する。彼は国務省のオフィスに立ち寄ってから日本大使館に向かうことになるだろう。


「しかし、最近のジャパンはますます考えていることが良くわからん……総督を害するなど叛乱も同然、秩序回復を理由にコリア全土で武力討伐をしても不思議ではない……いや、以前に独立運動が起きた時はそうしたではないか……」


 フーヴァーは執務机の上にある地球儀の一点を見つめながら呟いた。

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