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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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農業政策の転換への布石

皇紀2590年(1930年) 7月13日 東海道本線急行列車


 川南豊作との邂逅は有坂総一郎にとって幸か不幸かわからない。


 川南が転生後に造船能力向上に注力してきたことは間違いなく帝国の国力に寄与しているのではあるが、東條-有坂枢軸による計画統制介入とは別に動いているという存在が増えたということに他ならないのだ。


 大角岑生海軍大臣が独自路線で帝国海軍の派閥をコントロールし、海軍長老へ巧みに取り入り海軍軍縮会議を実質的にリードしたことや、史実とは異なり艦隊派を自分の派閥と化したことも不確定要素であったが、今回の事態発覚はそれにも等しいものであった。


 帝国陸軍については東條-有坂枢軸が大きく影響力を発揮し、特に兵器開発と配備に介入することで梃入れをしているが、川南と大角が仮に結びついた場合を想定すると帝国における転生者パワーバランスが崩れることを意味している。


 大角介入によって史実と違った海軍軍縮が行われたことで世界の海軍は間違いなく大艦巨砲主義への傾倒を加速させてしまった。


 事実、大英帝国は超巡の建造推進によって補助艦艇名目での主力艦増強にシフトし、ドイツ=ワイマール共和国も襲撃艦の量産に入っている。史実のポケット戦艦とは異なるが、明らかに英超巡を意識したものであることは間違いなかった。


 これらの動きはフランス、イタリアにも波及し、軍縮条約の妥結は実質的に出来なくなり、史実の様な制限を掛けるという意味の軍縮会議ではなくなってしまったのだ。


 海軍関係でこれだけ大きく史実からかけ離れてしまったことで帝国海軍も史実ではお流れとなった金剛代艦の現実化、場合によっては大和型の早期着工すら可能性としては出てきているのだ。


 そんな中で川南のカミングアウトは総一郎にとって衝撃的だったのだ。可能性として配慮するのと現実問題として対処するのでは大きく違うからだ。


「私はこれで失礼しますよ。また帝都に出向いた折にお会いすることもありましょう。そうそう、有坂さんの始めた吟醸と大吟醸、最近では九州の酒蔵でもチラホラと見る様になりましてな、いや、良い酒が出来る様になりましたな。今夜もそれにありつけたらと思いますな」


 川南は酒を呷るような仕草をする。京都駅で降り、関西財界の会合がある河原町へ向かうという。時期柄川床での宴席なのだろう。


「日本酒こそ日本人が呑むべき酒ですから、ならば美味い酒をと考えます……酒造好適米も生産量が増えてきておりますから今後は色々な味が楽しめることでしょう」


 そう返すと楽しみだと言わんばかりの表情を浮かべて川南は改札へと向かっていった。


――次は農業だな……。満州が手に入ったことで満州産の大豆などが入り込んできたことで食料生産には余裕があるが……今後暫くは東北は冷夏などで不作が続く……まぁ、雇用環境は悪くないから農業人口の余剰分を建設関係に振り向けることが出来ている間が勝負だな……。


 時期的にコシヒカリの起源になる水稲農林1号品種が開発中である。史実では31年に新潟県農事試験場で栽培され、寒冷地仕様として34年の東北冷害にも耐え、戦前戦中戦後において多くの日本人を飢餓や栄養失調から救った。


 史実30年は豊作であったが、時期が悪かった。ニューヨーク発の世界恐慌のあおりを受け、米価暴落、生糸の需要減というダブルパンチにより昭和農業恐慌が発生していたのだ。そして31年は記録的な凶作と長引く世界恐慌で農村経済を完全に破綻させてしまったのだ。


 だが、この世界でも今年30年は豊作の予想であるが、帝国政府の方針で過剰収量分は政府買取を表明し、軍の兵糧及び備蓄米として活用すると宣言したこともあり全体の流通量が抑えられると見込まれたこともあり米価暴落という状況は見えていなかった。


 それと同時に世界恐慌とは縁のない帝国にとって農村経済を疲弊させる要素が今の時点ではなかったのだ。そこが史実との違いであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 農業は機械化出来る穀物類と難しい野菜等に分けられるから、小作解放が果して良いことだったかは難しい。 土地から「解放」するのは良いが、土地付きにしたら生産性が下がるだけでしかないし。 …
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