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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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造船王にして反逆者なお仲間

皇紀2590年(1930年) 7月13日 寝台特急”富士”


 下関駅で回送列車になる”富士”を眺めていた有坂総一郎に声をかけた人物がいた。「あなたとお仲間ですよ」との一言が衝撃を与えたが、彼から受け取った名刺を見る限りある意味では納得がいくものだった。


「川南工業……川南豊作……なるほど……」


 総一郎はぼそぼそっと呟く。


「ええ、あなたは何時の御仁かわかりませんがね、まぁ、列島改造だなんて言葉を言い出すということは少なくとも昭和後期の方なんでしょうなぁ。しかし、派手にやりましたなぁ。今や三井や三菱にも肩を並べる大政商ではありませんか」


 川南は笑いながらそう言うがその目は笑っていない。


「うちは海軍さんとのお付き合いが少しありましてね、なんでも朝鮮総督の斎藤大将がテロに遭ったということだそうですが……有坂さん、あなたは何か御存知なんでしょう?」


「……申し訳ありませんが裏で糸を引いた……とお考えかも知れませんが、これは無関係でして……少々当惑しています……」


「なるほど、朝鮮の統制強化を狙ってA機関をお使いになったのかと考えておりましたが……どうやら本当に御存知ないようですな」


 川南の口からA機関の名が出てくるとは思わなかっただけに不意打ちを食らうこととなった。


「川南さん、あなたは三無事件の首謀者であったと聞いておりますが……」


「そんなこともありましたな。ですが、その心配はしなくてもよろしい。今の帝国に不満はない。あの無様な戦後とならないようにあなた方は動いておるのでしょう? それに私も微力ながら帝国の国力強化に寄与すべく手を打っておるのですからな」


 そう語る川南の表情は少しだけ和らいだ感があった。だが、それも束の間、彼は釘を刺すのを忘れなかった。


「……私はね、あなたが陸軍に肩入れして陸軍御用になったあたりから注意深く観察していたのですよ。そして、平賀造船少将と頻繁に会合を持っていることに気付いてから転生者(お仲間)だと考えてその行動の意図から次にどう動くか想像していたのですがね、まさか、関東軍ではなく、あなた自身の手で満州事変を起こすとは思いもしないものでしたね。だが、まぁ、前世と違ってこの世界では満州事変は列強の黙認がある。これは大きな勝利だ……そう考えて、敢えて介入することをやめたわけです」


「ということは、川南さん、あなたは私の行動如何では阻止する動きをしようと考えておられた?」


「無論そうです。勝てぬ戦をするような真似は許さない。あの無様な負け戦にもう一度突っ走る真似だけはさせない……。だが、まぁ、あなたは政界中枢に食い込んでいて追い落とすには難しい状態だったのでね、あなた方の政敵に献金をして勢力を均衡させようとしたのだが……所詮はアホウドリや狂犬だった。役者が違ったのでは相手にならんと思ったわけです」


 川南の言葉で総一郎は察した。


 鳩山一郎や犬養毅、そして幣原喜重郎などが一時的に勢力を盛り返してきたことがあったが、その時に支援していたのが川南であったのだ。だが、すぐに彼ら反政府勢力が瓦解、勢力減衰したのは後ろ盾である川南が手を引いたからだったのだ。


「だが、まぁ、あなたや東條少将が帝国の手綱を上手く捌くのであれば、私は協力しても良いと思っている。だが、その条件は岸信介らの商工省の統制主義を出来るだけ抑えることだ。無論、彼らが全て間違っているとは思わんさ。だが、やりすぎは非効率になるだけだ。あなたはそれがわかると思うが」


「岸さんはうちを目の敵にしておりますからね……特に鉄道省・陸軍省と結託している私なんて岸さんにとっては目の上のたん瘤でしょう」


「そりゃあそうですな」


 総一郎が肩をすくめてそう言うと川南は笑い飛ばした。


「傾斜生産方式は是非ともやるべきだが、前世の統制経済はわかってない軍人と官僚が書いた帳簿上のそれでしかなかった。だからこそ、算盤を弾ける財界人がなんとしても食い込まないといけない」


 川南の言葉に総一郎は頷くしかなかった。それは彼が自分が思っていたことに他ならなかった。

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