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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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爆弾テロ<1>

皇紀2590年(1930年) 7月12日 大刀洗


 大刀洗飛行場司令との会見が終わると有坂総一郎は大刀洗軍用線に便乗者として乗車、博多駅に向かった。会見は夕食会も兼ねていたので博多駅に到着した頃には21時を回っていた。


 博多駅近くのホテルにこの日は宿を取っていたのだが、宿帳に記入をすると電報が届いていて預かっているとのことで受け取った。


「シキュウ レンラク コウ トウジョウ」


 東條英機少将からの連絡を入れよとのメッセージだった。総一郎は旅装を解く間もなく電話台まで行き、交換台を呼び出し東條邸へ電話を掛ける。


――全く、明日には帰京するのに一体何がったんだか……。


「有坂です」


「おぉ、貴様か……遅かったな」


「つい今しがたホテルに着きましたからね。それで、どうしました? 明後日の午後には顔を出そうと思っておりましたが」


「それがだな……朝鮮で赤化勢力が暴発した……現在情報は伏せられてはいるが明日には発表になると思うが……斎藤実総督が爆弾テロにあった。総督の容態は予断を許さないという」


 内地においては内務省、憲兵隊が徹底した赤狩りを行い掃滅作戦を実施していることもあり赤化勢力が伸長することはなかった。だが、内地から送還された朝鮮人や没落朝鮮人は不満分子として朝鮮総督府領内ではマークされていた。


 しかし、時折不満分子がデモやストライキを起こす程度で斎藤総督は内地の様な掃滅作戦を実施することなく穏健な統治を行っていた。そのため、警察も極力武力行使を行わず、また自身の警護も最低限にしていた。


 この日も公務で京城市内に出向いていた斎藤であったが路上に仕掛けてあった爆弾が爆発し、警護が警戒するも機関銃乱射によって公用車を破壊され、その際に被弾したという。


「斎藤総督が襲われるなど前世にはなかったことですよ……」


「だが、現実に起こった。間違いなく、朝鮮人隔離政策の結果だろう。穏健な政策で没落朝鮮人に救いの手を差し伸べていたというのに……これで朝鮮への締め付けを強化せねばならんだろう……政府も苦慮している」


「わかりました……ソ連が関東軍に動揺を誘うために画策したのでしょう……関東軍を動けなくしておくことでソ連は他の方面で自由に動けます……場合によっては北京が落ちるかもしれませんね」


 総一郎の頭には支那方面の地図が浮かんでいた。


 関東軍と帝国本国を満州全域と朝鮮半島に釘付けにし、しかも、関東軍そのものが赤化という疑念を抱かせ、身動きできなくしたならば、ソ連にとってこれ以上ない好機である。


 満州事変によって張軍閥が追い出され地盤を失った張学良は北京北洋政府そのものが重要な策源地になる。だが、欧州列強によって北京、天津、山東半島、秦皇島など租借地が多数存在し、税収の基本である港湾に関してもその殆どで関税自主権はなく非常に政権基盤は脆弱であった。


 北京北洋政府と張軍閥は虫食い状態である以上、国民の不満も大きく、軍隊の力で押さえつけるしかその統治を円滑にする方法はない。これが赤化勢力にとってどれほど好機であるのか、語るまでもないだろう。


 そしてモンゴル人民政府はチンギスハン30代目の子孫である徳王が率いる蒙古自治運動勢力を目の敵にしている以上、後ろ盾の北京北洋政府が瓦解寸前である好機を活かしてこれを潰しにかかろうと考えているのは間違いなかった。実際にモンゴル人民政府はソ連赤軍を引き入れ、張家口方面に進出をちらつかせている。


「有坂よ、北京が仮に落ちても構わんが、徳王ら蒙古の者たちは救わねばならん……彼らは我らと共存を望む者たちだ。欧州の連中がどう動くかわからんが、なんとかせねばならん」


 東條の望みを総一郎は理解出来た。


 大東亜会議、大東亜共栄圏、東條は心の底からこれの理想を達成せんとした。だからこそ、その理想との乖離、国内における認識の乖離と国民の優越感情に頭を悩ませたのだ。


「いずれにしても、長城線を超えることになりますから兵站で苦しむことになりかねませんよ? それは閣下が一番よくわかっていらっしゃると思いますが……」


 総一郎は東條に苦言を呈した。


 史実で東條が関東軍参謀長であった時に実施した察哈爾作戦のことを指摘している。作戦そのものは圧倒的勝利をおさめたが、この時に補給が間に合わず部隊が飢えに苦しむという状態に陥った。


「アレを繰り返すことはしたくない……」


「陸軍さんの作戦指導は私の管轄外なので苦言を呈することしか出来ません……なので、後方の支援は致しますから無茶苦茶な作戦をしないように出来る限り軍事調査部長として兵站の確保を要求してくださいね」


「あぁ、それはなんとかする」


 東条との電話を終わるとすぐに交換台を呼び出し、有坂邸に繋がせた。


「こんな時間に誰ですの?」


「私だよ、結奈、明日一番に社内戦時体制移行を指示して欲しい。銃火器、トラックの24時間連続生産体制だ!」


 電話に出た有坂結奈は不愉快そうな声色だったが、総一郎の指示で事態を理解する。


「どこかで戦端が開かれたの?」


「いや、斎藤朝鮮総督が爆弾テロに遭った。事態は流動的だ。赤軍の南下に備えねばならん。社内の士気を上げるために今月の給与から2割増しにして総力戦突入だ……トラックが足りん。優先はトラック、その次に武器弾薬だ!」


「わかったわ……明日朝一で伝えるわ。社内の調整は行っておくわ。どうせ、急いでも帰ってくるの明後日の朝だものね。任せて」


「頼んだ」

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