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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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西日本視察<5>

皇紀2590年(1930年) 7月12日 大刀洗


 あっという間に車酔いとなった有坂総一郎に配慮した佐々木忠則少佐の運転ででこぼこ道を走ること15分、数キロ先の大刀洗飛行場の司令本部に到着した。


 この時期の飛行場は明確な滑走路が存在しないことが多く、東洋一の飛行場と謳われたここ大刀洗飛行場も同様であった。広大な敷地を持つ原っぱというのが実態である。


 だが、そんな飛行場であるが、整備用の建物や管制用の物見櫓など必要な施設は揃っている。いや、それどころか民間空港としての施設も充実していたのだ。


「佐々木さん、ここ、一応軍民共用ですが、民間機向けの施設は殆どなかったと聞いていたのですが……」


 総一郎は民航機用の施設が想像より充実していることを疑問に思い佐々木に尋ねるが、その答えはあっけらかんとしたものであった。


「博多駅と直通の大刀洗軍用線が出来てから九州財界の方々が帝都との行き来や満州方面との行き来に飛行機を利用することが多くなったのですよ。その結果、目ざとい商人たちがここに営業拠点を構えて商売を始めたというだけのことです」


「いや、しかし、大刀洗軍用線は軍用で民間人は……」


「軍用貨物または納入物品の添乗員という体裁を取れば便乗が可能ですから、それを活用しているというわけです……まぁ、一種の付け届けさえあれば乗せるという抜け道を司令官が黙認しているのです」


 事実上の賄賂で軍用鉄道に便乗が可能であり、それが故に飛行機を使うことが出来る富裕層にとって便利な存在となっていたことは驚きであった。


「よくそんな抜け道を思いつきましたね……」


「帝都の陸軍省の方々と違って現場は貧乏ですから地元財界の付け届けはありがたいことです……ですが、それでもやはり軍用鉄道かでこぼこ道を走って連絡する不便は財界の方でも不満があるようでして福岡市内に民間飛行場をという話は出ている様ですね」


「確か、名島水上飛行場が春に開設されたばかりだと伺っていますが……」


 30年春に福岡近郊の名島に水上機専用の飛行場が開設されていた。これは史実通りであり、博多湾を自由に離着水出来ることが大きなメリットであった。既に水上機による定期便も運用されていた。


「ええ、ですが、水上機よりも陸上機の方が良いという話も出ておりましてね、別に飛行場を設けるという話が出ておりますよ……」


「しかし、福岡近郊ですと適地がそれ程ありますまい? 狭い飛行場では事故が起きた時は犠牲が大きくなると思うのですが……」


「そうでしょうね……実際に我が軍でも危なっかしい操縦でヒヤリとすることは多々ありますから、それが民航機ということでこれから大型化、高速化が進むであろう飛行機ではなおのこと……」


 佐々木は少し心配そうな表情でそう言う。


 史実でも佐々木の心配はそのまま現実化していた。大刀洗から移転した先の雁ノ巣飛行場において大日本航空のロッキードL-14スーパーエレクトラ”球磨号”が離陸直後に失速し海岸近くの松林に墜落するという事故が起きている。


 これはL-14の機体性能と雁ノ巣飛行場の滑走路の短さによるものが引き起こしたものであると言われている。滑走路の長さは日本国内では標準的な800mであった。しかし、問題はL-14はエンジン性能が悪く翼面荷重が大きいため低速度における安定性に難があったのだ。これによって短い滑走距離と無理な急上昇が重なり墜落したのだ。


 比較的翼面荷重が低い日本の航空機であれば問題が起きない状況であっても、外国製の機体においては致命的なものとなるという結果を示している。


「財界にも顔が広いであろう有坂さんが音頭を取っていただけるとありがたいなと思います」


 佐々木の瞳は真剣なものだった。部下たちが日々危険な飛行任務に就いているだけに切実な問題だったのだろう。


「微力ではありますが、口添えはさせていただきます……」

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