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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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新たなる火種

皇紀2590年(1930年) 7月10日 門司


 有坂総一郎の西日本視察は徳山において8日に出光商会、9日に徳山燃料廠と行われ、9日夕刻には門司にある三井倶楽部において出光佐三と会合を持っていた。


 出光は丁度満州から戻ってきたタイミングで徳山製油所に彼が顔を見せたことで入れ違いになったことを知り総一郎の宿泊先であった門司の三井倶楽部に追い掛けてきたのである。


「有坂さんよ、満州はいよいよ緊迫の度を増してきたようだ。露助どもの威力偵察が頻繁に満蒙国境付近で行われているらしく関東軍がピリピリしていたよ。在満日本人や商用旅行問わず渡航者はハルピンへ避難が命じられているせいで仮称大慶に行くことが出来なくてな、結局トンボ帰りってわけさ」


 出光は大慶油田の探鉱と試掘の現場視察に赴いていたのだが、ソ連赤軍の活動が活発化してきたこともありハルピンで足止めを食った様である。


 関東軍もハイラル前面に展開する第2方面軍がソ連赤軍と度々小競り合いを演じる様になったことで長城線に張り付いている第1方面軍から1個師団を転用し、大興安嶺南麓にある興安に展開させ、鉄道連隊によりノモンハン南方の阿爾山まで野戦鉄道を敷設させ、ここまで進出させる予定であるが、難航が予想されていた。


「そんなにソ連赤軍の活動が活発化しているのですか?」


「関東軍司令部に出入りして情報を探ってみたんだが、石原莞爾中佐だったかな? 山東で支那兵を丸焼きにしたと有名な御仁だが、彼が偵察飛行した分には北満方面は陽動だろうと……恐らく、外蒙古から内蒙古が主攻ではないかと言っていたよ」


 出光の口から思いがけない人物の名が出てきたことに総一郎は驚いた。


「石原中佐ですか……そう言えばあの人、今は所沢教導飛行団で満州にいたんでしたね」


「知った顔かい?」


「ええ、ダメ人間製造工場(所沢教導飛行団)の話は聞いたことがあるでしょう? あそこの活動資金、我が社から出ているんですよ……そして大元締めのエルンスト・ウーデット氏を引っ張ってきたのが石原中佐なんですよね。そうですか、あの人が内蒙古に来るっていったんですね、関東軍は彼と違い、主攻は満蒙国境やチチハルだと考えていると……なるほど」


 石原の読みはほぼ当たっていたが、関東軍からすれば内蒙古は北京北洋政府の管轄であり、自分たちが守るべき領域ではないと判断していることもあり、北満の防衛を優先した格好になっている。


「私も石原中佐の読みは正しいと思う。上海支社の報告に最近はロシア訛りの英語を喋る人間が見受けられるというものがあったのでね、蒋介石とソ連の関係が切れている今、ロシア人が支那へ入るとしたら武漢のアカどもかそれ以外の軍閥かと考えられる」


「すると支那大陸でまた紛争が始まると……」


「そう考えている。そうなると上海と香港程度しか列強が確保している地域がない中支、南支に関してはアメリカが噛んでくる可能性も十分にあると……私は睨んでいる。だが、断片情報を繋ぎ合わせているだけだから予測の一つ程度に思って欲しい」


 出光は支那大陸で起きようとしている事態を予見していたが、それは確固たる予測ではないためにあくまで私見という言い回しをしていた。


 アメリカにとってラストフロンティアである支那大陸への再進出という切っ掛けになるものだが、総一郎にしてみればここでアメリカが介入した場合、蒋と手を組もうが赤化勢力と手を組もうが、アメリカがベトナム戦争並みの泥沼に嵌まり込む未来しか見えなかった。


 そういう意味では関東軍が北満の防衛を優先して万里の長城から向こう側を切り捨てていることに関しては適切な判断といえなくもない。日英独仏伊の権益がある北京、天津、秦皇島、山東省に手を出されない限り、アメリカを除く列強は支那の内戦に介入する必要はないのだ。


「なるほど……これはまた困ったことになりそうですねぇ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりアメリカに中国で一足早くベトナムの地獄を味わって貰いたい気がしますね。 ラストフロンティアなんて存在しないと目を覚ますのでは? 日本も必要以上にアメリカから敵視されずに済むかも?
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