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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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三菱名古屋で旗を振る男

皇紀2590年(1930年) 6月8日 愛知県 名古屋


 名古屋といえば三菱航空機の本拠であり、港湾地区には三菱の工場群が所狭しと並んでいる。後にさらに拡充された三菱の工場群は史実では金星、火星の各種発動機を量産し、近隣の各務原や小牧飛行場と連携し各種新型機のテストや製造が行われていた。


 大戦末期には東海地域に甚大な被害を与えた東海地震によって三菱の工場群も多大な被害を受けた。追い打ちを掛ける様に本土空襲によって文字通り焼け野原となり三菱の主力工場は事実上消滅してしまったのである。


 史実において三菱航空機、後に三菱重工業と合併した航空機部門・発動機部門にある男が転任してきたのは33年のことであったが、この世界では彼の転任は3年も早くこの年の4月に実現したのである。


 彼の名を深尾淳二という。三菱重工業本社は長崎造船所での彼の功績を買い、同時に先行する中島飛行機への対抗という意味もあり彼を名古屋へ異動させたのであった。


 史実において彼が名古屋製作所へ転任したことで三菱の発動機開発は軌道に乗ったと言える。


 彼が発動機部長になった際に掲げた目標は以下の通りであった。これによって発動機開発の方向性が確立されたことで三菱の技術者たちは目標を完遂するためひた走ることになったのだ。


 1、航空機用発動機は高性能であり高信頼性である必要がある。また、世界一でなければならない。

 2、外国有力企業は液冷、空冷に絞って開発製造している。我々も二兎を追わず一兎のみ追うべき。

 3、陸軍用、海軍用と発動機の区別をしてはならない。

 4、陸海軍との合作では世界一にはならない。我々は独自設計、開発を行うべきである。


 この方針を示した上で深尾は明快に空冷発動機一本化を宣言したのである。しかし、陸海軍を刺激することを考慮し、部内にのみ通達し、社内上層部は元より外部には明らかにしなかった。


 これにより中島に先んじて開発したA4発動機を改良進化させたA8発動機の開発をスタートし、36年春には実用化に実質的に成功してたが、やはり深尾の示した方針は軍部との軋轢を生む。


 軍部の意向を無視した発動機開発であったこともあり、陸軍はこのA8(及び制式化した金星)に不満を抱き当初は見向きもしなかった。無論、これは軍部が悪いというのは早計である。三菱の独断専行は他の発動機開発にも影響を与え、開発遅延や軍の要望に沿わないという結果を生んでいた為、軍部の批判は道理に適っている部分もあったのだ。


 しかし、海軍はA8の将来性を審査段階で確信、陸軍とは逆にこれを100台単位で発注を行ったのだ。海軍向けの最初期量産型はA8-a金星3型と命名された。さらに36年7月には改良された本格的量産型A8-c金星40型が誕生し、ここに三菱の発動機の基礎が固まったのだった。


 イスパノスイザ系液冷発動機の経験によって開発されたA4発動機を三菱技術陣は深尾の指揮によって改良することで後に金星へとつなげたが、それとは別にプラット&ホイットニーのR-1690ホーネットのライセンス生産である明星というアメリカの血を入れることで技術的な不足を補うことで金星の完成度を高めていた。


 さて、史実の流れとは違い3年も早く船舶部門から発動機部門へ深尾が転任した影響は大きかった。


 まずは発動機事業の状況を把握するために2ヶ月の時間をかけ、問題点と自分たちの強みを理解し、今までの研究による資料を洗いなおしたのだ。これによって彼らは自分たちが見落としてきたことを知ると同時に失敗を糧にする機会を得たのだった。


 史実と同じく、明快に世界一の発動機を宣言すると同時に軍部のゴリ押しによる制約の多い開発ではなく、あくまで自主開発を基本とし、それに適宜、外の血を入れていくことで改良と進化を図ると方針を打ち出したことで三菱技術陣の士気は高まったのである。


 また、試製90式艦上戦闘機の競作によってA4発動機の先進性と発展性を海軍が認めたことが彼らに自信をつけさせ、同時に開発の方向性の正しさを担保していると確信させたのである。


「さぁ、諸君、中島が複列14気筒に手間取っている間にこちらが1歩でも2歩でも先に進んでいこうじゃないか!」


 深尾の激励によって三菱技術陣は金星の開発に邁進するのであった。

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