ロンドン軍縮会議<6>
【告知】ドイツ襲撃艦コンペ開催【告知】
1930年夏に就役するドイツ襲撃艦についてコンペを開催。11月30日までの期間で応募を受け付けるので是非参加していただきたい。
活動報告「このはと」ドイツ襲撃艦のコンペ
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1102207/blogkey/2449084/
大和型のテンプレートを用意しているのでそれを参考に応募して欲しい。
皇紀2590年 4月18日 大英帝国 ロンドン
ロンドン軍縮会議は未だに妥結に向かう道筋が見えていなかった。日英がアメリカへの不信から逆に廃艦による戦艦の削減をしない方向の主張をし始めたからである。
日英が要求しているアメリカの戦艦6隻の廃艦が仮に実現した場合、それがそのままソ連に渡ると仮定され、そうなった場合、バルト海の制海権に直結し、ドイツの海軍力拡張に繋がるため、大英帝国にとっては独ソという仮想敵国の戦力が拡充されるという負の連鎖の脅威にさらされるからであった。
また、大日本帝国にとってもソ連に旧式とは言えど一線級の戦艦が配備されることは重大な脅威である。仮にカムチャッカ半島のペトロハヴロフスク=カムチャツキーに配備されたとすると太平洋航路への重大な脅威となる。海産資源の豊富なオホーツク海に進出すれば漁船団が脅威にさらされ、宗谷海峡に出没すれば稚泊航路が閉塞される。太平洋を南下すれば、北米航路や内南洋航路が脅威にさらされる。アメリカと連携したと仮定した場合はさらに状況は悪化する。フィリピン・キャビテ軍港を根拠地にした場合、南方資源地帯との航路が閉塞され、ハワイを根拠地とした場合、南米航路までも通商破壊の対象となるのだ。
しかも、日ソは相互に不信感と敵対心を持っている為、戦時でなくても宣戦布告なしの通商破壊すらソ連はやりかねない。
日英にとって軍縮条約はそのまま米ソの封じ込めの場に様変わりしてしまったのだ。
「我が大英帝国と日本帝国は見解の一致をみたことから、アメリカ合衆国に対して5年間の新型戦艦建造中止を要求すると同時に現在の廃艦対象である6隻の戦艦の保持を認めることとした」
ラムゼイ・マクドナルド大英帝国首相は会議の冒頭で日英の共同見解と要望を提示した。マクドナルドの主張は議場にどよめきをもたらしたが、それも想定の範囲内だったことからすぐに議場は静かとなった。
「我が大日本帝国はイタリア王国との協定に基づき、伊勢型戦艦2隻を廃艦にし交換する。これに伴う日米間の戦力不均衡状態に対して、2隻の代艦保有を認めていただきたい。無論、これが認められない場合、6:16という明らかな不均衡状態を列強が我が帝国に強いると認識し、直ちに代艦2隻と新造艦4隻の6隻建造を開始する用意がある。無論、それに連動し、建造自粛している巡洋艦の同時起工を行うものとする。これらはワシントン軍縮会議で認められている我が国の権利の行使であり、軍備拡張ではない。あくまで自主的に国際平和に寄与せんと自粛をしていたが、それすら認めないのであれば、それは我が帝国への不平等条約でしかなく、その様な不利益を受け入れる理由はない」
若槻禮次郎全権代表はマクドナルドに続いて声明を出し、事実上の軍縮条約脱退の可能性を示唆した。無論、国際平和のための譲歩という貢献を明言し、それに対する便宜なくばワシントン軍縮会議で認められている範囲の軍備拡大を行うという正当な権利行使を主張したことは世論対策的な側面が大きい。
もっとも、日本全権団としてはこのまま妥結せずに軍縮会議が流産となることを期待していた。そうなれば直ちに代艦という枠に囚われない無条約戦艦を建造出来るからだ。
米ソ密約疑惑によって、「妥結に向けた姿勢を示しつつも決裂へ誘導するように」と帝都東京の本国政府から訓示が届いていることもあり、全権団の海軍側代表は決裂になるように促そうとしていた。そのために水面下で仏伊に接触していたのだ。
「我がフランスから一言良いだろうか? 我々は英米日の利害の不一致という現実を見る限り、今回の軍縮会議は現状維持……ワシントン軍縮会議、ジュネーヴ軍縮会議の枠内のままとし、戦艦の削減を行わず、建造禁止期間を暫定設定することでどうだろうか?」
「我がイタリアもフランスの主張に賛成する。1年間の建造禁止期間を設け、1年後に再度軍縮会議を行いそれで削減なのか代艦建造なのか決めるべきだろう……今は余りにも情勢が悪い。予備会合をジュネーヴの国際連盟で定期的に行うことで相互理解と信頼醸成をすべきだろう。また、我が国はフランスとの勢力均衡という観点から建造中の新型戦艦4隻のうち2隻の工期を遅らせることとする。これはフランスとは同意済みである」
列強にとっては米ソの連携という悪魔同士が手を結ぶ状態を防ぐことが先であると共通認識があったことからそこは無言の連携であった。ある意味では地域安全保障の枠組みが出来た瞬間であったかもしれない。だが、基本的に彼らの合意は敵の敵は味方であるという下心でしかない。
「では、我がアメリカも諸国の提案を受け入れるとしよう。戦艦の廃艦はせずに我が国の保有16隻体制の現状維持、それ以外の保有量に関してもワシントン・ジュネーヴ両条約の追認と維持、日本帝国の代艦建造の許可で手を打ちましょう。但し、3万5千トン未満、14インチ10門以下が条件である。これは先に反故された米英合意を基本としたものである異存はあるまいな?」
アメリカ海軍全権代表が返答する。国務長官ヘンリー・スティムソンは本国へ召還されたため代理での返答だったが、あらかじめ妥協出来るラインを設定していたことでアメリカ全権団にとっては問題なく回答出来るものだった。彼らの想定ラインよりもいくらか条件が甘かったこともあって満額回答といえるものであると彼らは考えていた。
「では、今回の会議では各国が満足いく内容にはならず、決裂となりかねない状況だった。故に現状の追認という形で閉会したいと思う。来年の第二次ロンドン軍縮会議までの間、ジュネーヴにおいて予備会合を毎月開催し、お互いの溝を埋めるという形としたい」




