Arsenal of Democracyと八紘一宇の激突
【告知】ドイツ襲撃艦コンペ開催【告知】
1930年夏に就役するドイツ襲撃艦についてコンペを開催。11月30日までの期間で応募を受け付けるので是非参加していただきたい。
活動報告「このはと」ドイツ襲撃艦のコンペ
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1102207/blogkey/2449084/
大和型のテンプレートを用意しているのでそれを参考に応募して欲しい。
皇紀2590年 4月10日 大英帝国 ロンドン
モスクワ発の衝撃の発表から3日。
この間、アメリカ全権団の必死の釈明とモスクワの発表を否定に費やされ、特に日本側からの反発が大きく明らかな国際信義に関わる重大問題だと糾弾されていた。
「貴国のフーヴァー大統領は明確に否定をされているようだが、我々は合衆国の言葉に信用を置くことが出来ない。ジュネーヴ会議における旧式艦廃艦の約束も一向に果たされないだけでなく、モスクワとの秘密協定疑惑……これでは我が国は太平洋から合衆国、シベリアからソ連と腹背に敵を抱えるようなもの……これは欧州列強も同様に感じていることだろう」
若槻禮次郎はヘンリー・スティムソンに真正面から斬り込む。
実際問題として大日本帝国と正統ロシア帝国はソ連工作員による亡命者暗殺などに手を焼いている状態であり、その多くがアメリカから再亡命しようとしている資産家や技術者などが狙われているためアメリカ国務省に亡命希望者の保護と護衛を依頼しているがその効果が薄いことから苛立ちを覚えていたのだ。
無論、アメリカ国務省や関係官庁が日本側の要請を無視しているわけではない。上層部は国家の体面もあることからしきりに動いているのであるが保護対象に接触しようとすると消息不明や遺体で発見されることが多々あることから彼ら自身も頭を抱えている状態だった。
「我が合衆国は民主主義の旗の下に自由公正を謳っておる。それと真っ向対立するソヴィエト連邦と手を結ぶなどあり得ない。例えて言うならば悪魔と契約するようなものだ」
スティムソンはそう言ったものの、自身が秘書官に発した軽口が火元であることは自覚があるため若槻に視線を合わすことが出来ず、口にするにも憚られると言わんばかりの態度をとり誤魔化した。
「そうですか。であれば良いのですが。何しろ我が帝国がシベリアで一人戦い続けていた時にいち早く撤退した御国がありまして、その国は我が帝国がシベリアからの撤退をしないことに異議を述べられていましたからね……再び悪魔との聖戦があるときには参加してもらいたいものですが」
若槻の嫌味は二重の意味でスティムソンに突き刺さる。
シベリア出兵における裏切り、悪魔との契約の否定。それぞれに対して釘をさすものであるだけに何かここで口にしたのであるならば言質を与えるも同然だった。
「まさか、再び戦争だなどと……欧州大戦が終わったばかりで人類皆が平和を望んでいるこのご時世で? 穏当ではありませんな」
「我が帝国にとっては大戦の惨禍は過去のことではないのですよ……現実にソ連が不法占領している北西満州のハイラル要塞には方面軍単位の兵力が集結しつつあり、我が関東軍との睨み合いが続いておりますからな……無論、その後方のイルクーツクなどには増援が控えているであろうことは容易に想像が出来ますな」
「それは貴国がシベリアから撤退をせず正統ロシアを建国し、その上満州事変で満州全域を保護領としたことによる結果でしょう。貴国が大陸進出を継続した結果の責任を押し付けられても迷惑千万。いっそ、日本帝国陸軍の軍縮を合わせて行っては如何かな? 周辺国もそれによって矛を収めるのではありませんかな?」
スティムソンはアメリカが従来主張する日本による膨張主義、黄禍論を主張し、陸軍軍縮を求めた。防戦一方なだけに一矢報いるとすれば日本の大陸政策が格好の対象だからだ。
アメリカ世論ではラストフロンティアを横から掻っ攫っていったというものが流布されている。これは近年の日本の急速な工業化や近代化を脅威と感じた軍産複合体を中心とした風説の流布であるが、アメリカの言論界はそれを意図的なものであると認識しつつも従来から根強い人種差別と日本の不公正な手段による膨張への正義感からの嫌悪をそのまま記事にし報道したことで反日的な世論構成が少しずつ浸透していたのだ。
そこにはロシアマネーが日本と接近したことに対する反発からユダヤコミュニティーが反日に回ったことが大きい。彼らが欧州で迫害を受けた結果アメリカへ移住したわけだが、その欧州が日本との接近を選んだことで日米間の対立が激しくなるとそのまま彼らユダヤコミュニティーも自然と反日に与していったのだ。いや、積極的に反日への世論誘導をしているのは彼ら自身だと言っても良いだろう。
スティムソンはそういう事情を理解しているだけにあまり追い詰める真似をするのは良くないと思いつつも国益を優先してその流れを利用していた。
「我が帝国は軍縮すること自体には何ら反対するものではありません。列強が揃って戦艦を全数廃棄するのであれば喜んで同意しましょう。ですが、その様なことをしても誰も利益を得ることはないでしょう。我々が武器を捨てても、それはならず者が跋扈する世界に導くだけ……当然、我が帝国が軍縮をして大陸から撤退しても同じこと。権益を失うことは大きな痛手ですが、我々が手を引いた満州や支那の地は再び地獄絵図、軍閥や共産主義者による草刈り場となりそこに住む者たちが虐げられるだけ……お分かりか?」
当事者と傍観者では見えているものが違う。それを若槻はスティムソンに突き付けたのであった。




