フーヴァー談話
【告知】ドイツ襲撃艦コンペ開催【告知】
1930年夏に就役するドイツ襲撃艦についてコンペを開催。11月30日までの期間で応募を受け付けるので是非参加していただきたい。
活動報告「このはと」ドイツ襲撃艦のコンペ
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1102207/blogkey/2449084/
大和型のテンプレートを用意しているのでそれを参考に応募して欲しい。
皇紀2590年 4月8日 アメリカ合衆国 ワシントンDC
突然のモスクワ発の談話に列強諸国は何が起きたのかわからないと騒然となった。
無論、公式にそんな話を持ち込んだ覚えのないアメリカ合衆国に至っては軍縮会議において平行線を辿っていることでフーヴァー政権がソヴィエト連邦と秘密裏に交渉を持ったのではないかと即日連邦議会が紛糾するに至った。
「冗談ではない。我が政権のスタッフは軽々しくこのようなことを口にしたりはしない。まして秘密交渉など行った事実は存在しない。そもそも我が合衆国はソ連と正式な国交を樹立していない。そんな中で交渉など出来ようはずがないことは諸君らが良く知っていることだ」
連邦議会における騒動はハーバート・フーヴァー大統領による正式な声明によって沈静化したが、連邦議会では政権でなければ誰がこのようなことをソ連に吹き込んだのかと犯人捜しの様相を見せていた。
連邦議会に続いてフーヴァーはホワイトハウスで会見を開き、自国は元より各国の記者向けに談話を発表したが、彼らを納得させるには至らないものであった。
「諸君らが驚いている様に私も大変驚いている。このような決定を下した記憶はなく、またこのようなことを軽々しく行うものは連邦政府だけでなく、この合衆国には存在しない。だが、何者かによって国交もないソヴィエト連邦に秘密交渉が持ちかけられ、スターリンがそれに乗り気であるということは事実である様だ……少なくとも先方は我が合衆国海軍の戦艦を望んでいて、我が合衆国の軍縮会議における戦艦削減に協力すると言ってきていることで彼らが本気で交渉を望んでいるのは疑いようがない」
フーヴァーの困惑に満ちた表情に記者たちもフーヴァーの言葉に偽りはないようだと感じてはいたが、事実だけを見るとアメリカという国家にとってスターリン談話は利益こそあって不利益がないのは事実であり、それこそがかえって米ソ密約の存在を強調している様なものだった。
「私は政府を代表して断じてこのような密約はないと明言する。同時にスティムソン国務長官にはロンドンでの交渉により一層協力することを指示を出している。アダムズ海軍長官にも海軍に協力的姿勢を示すように命じており、我が合衆国の努力の姿勢は軍縮会議の妥結に必ずや貢献すると確信している」
フーヴァーにとって大恐慌という当面の問題に対応しなければならない中で発生したこの秘密交渉暴露事件は政権支持率に直撃する事態であるだけに早期に幕引きを図りたかった。
日英との勢力均衡を図るためには海軍力の維持を要求しなければならないが、若槻演説によって軍縮に非協力的だという国際世論だけでなく、国内世論は侵略国家に屈するなと世論を煽る勢力によって板挟みにあっているフーヴァー政権にとって国内経済と国際政治という二正面作戦を背負い込んだのは明らかにフーヴァーの誤算であった。
国内経済は一時に比べれば落ち着きを見せてきてはいるが、それでも市場は右肩下がりであり、生産縮小と失業率上昇という状況であったが「不況はしばらくすれば元の景気に回復する」という古典経済学姿勢を貫き未だに大規模な公共事業による財政動員を行ったりはしていない。
ケインズ経済学を標榜する一派はしきりに海軍力拡張と公共事業による恐慌からの脱却を主張していたが、政府による経済介入を最小限に抑える政策を継続しているのだ。むしろ緊縮財政策を推進し金本位制の維持を優先していたのだ。
これらはケインズ経済学をまさに邁進している大日本帝国からすれば「あいつら何考えているんだ?」といわんばかりの状態であったが、彼らは過去の経験から真面目に対応していることもあり、逆に「ジャパンはあんなに積極財政をしているがそのうち破綻するから投資を控えよう」と考えている有様だ。
「諸君らに私から報告出来る明るい材料があるとすれば現在1年間のモラトリアムを検討しているということだ。欧州諸国への賠償支払い、債務償還を猶予することで彼らに経済復興してもらうことで欧州を恐慌から救済出来ると考えている。細目は検討中であるが、連邦議会が同意すれば年内にも適用出来るだろう」
いわゆるフーヴァーモラトリアムに言及したものだ。これは史実において31年に実施されたものだが、恐慌の影響を受けていないフランスが即座に反対をしたが1ヶ月で15ヶ国の承認を受け31年中に議会承認にこぎつけ実施されたのだ。
だが、史実ではこの間に世界恐慌はさらに深刻化し、大英帝国は金本位制を放棄し、ドイツは金融危機に陥り、フランスもモラトリアムが終了するとすぐにドイツに賠償支払いを強要するつもりでいたのだった。だが結局、完済出来たのはフィンランドただ一国であった。
史実以上にフーヴァー政権は危うい綱渡りをしていたのであった。




