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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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ロンドン軍縮会議<5>

皇紀2590年(1930年) 3月26日 大英帝国 ロンドン


 大日本帝国とイタリア王国の伊勢型戦艦2隻と建造枠交換の公表から2週間が経った。


 この間に各国は協議を重ねるが英米間の妥結はそのまま意味を失い、フランスによる旧式戦艦の売却による代艦建造の表明という枠組みは変わらず会議は空中分解といった様相を呈していた。


 特にアメリカ合衆国の反発は大きく、日伊両国に対し名指しで批判を行い、両国の合意枠組み逸脱は平和への挑戦とまで糾弾するに至っていたが日仏伊の三国は協調してそれに反発するという敵の敵は味方理論での提携をしていた。


 これによって英米間合意は完全に否定され議論はゼロスタートになった。


「そもそも、合衆国はジュネーヴ軍縮会議での妥結によって廃艦義務がある。それを履行しないにもかかわらず他国を糾弾するなど以ての外」


「我々は二国間において利害調整と国際的パワーバランスの調整をしているに過ぎない」


「我がフランスも日伊のパワーバランス調整に足並みを揃えブラジルに旧式戦艦を売却する方針である。これは日伊の了承も得たもので、当事者間の合意が出来ているのだから合衆国の口を出すべきものではない」


 日仏伊が一致して正当性を訴えることでアメリカが実質的に孤立していた。残るは大英帝国であるが……。


「日仏伊が戦力均衡と戦備刷新を図るのであれば我が大英帝国も同様に対応したい。英連邦諸国に戦艦を転属させるのはフェアではないと考えるから差し当たってスペインかチリにでも売却しようかと考えている」


 大英帝国の主張はアメリカの南米大陸政策に明確に挑戦するモノだった。


 フランスがブラジルにクールベ級を売却することでブラジルとの提携によってギニア湾や西アフリカの守りが強化されると同時にアメリカの南米への介入を跳ね除ける力を与えていることは明確だったが、同様にチリに大英帝国の旧式戦艦が配置されることはそのまま太平洋側の南米航路やパナマ運河からの海運を脅かされることを意味するからだ。特に南太平洋に対する影響力増大はそのままハワイ、グアム、フィリピン、サモアの維持に関わる重大問題である。


「英仏が行おうとしていることは南米大陸に要らぬ摩擦を生むことだ。このようなことは行われるべきではない。この場にいる4ヶ国は揃って軍拡の種を世界中に植え付けているのだと気付かないのか? それほど愚かではあるまい!」


 アメリカ合衆国国務長官ヘンリー・スティムソンは苛立ち言い放つ。


「我が合衆国が戦艦の廃棄を行ったとしても、貴国らは旧式戦艦の売却は継続して行うのであれば我らが廃艦する意味がないではないか! 特に日本の場合、自国の戦艦を減らしたという実績を作りつつその裏では大量建艦を可能とする準備を行っているではないか!」


 スティムソンは続けて対日不信を口にする。


「失礼な。我が帝国で行っているのは民間企業の経営規模、生産規模の拡大に過ぎない。貴国の造船所の数を数えてみたらわかるが、我が帝国の10~50倍はあるのではないかね? それこそ貴国の造船所の数を減らしてから言うべきではないだろうか? 無論、造船所であるから平時は民間船を建造する。戦時や準戦時になれば軍艦を建造するだろう。それのどこが問題なのだ?」


 若槻禮次郎は正論で斬り返す。


「ほぅ? では、何故貴国の陸軍はシベリアや朝鮮に大軍を張り付けていたのだ? 満州で問題が起きればすぐに踏み込むためであったとしか思えんが? あれだけ見事に軍事的勝利をおさめ、ハイラル近辺以外を抑えることが出来たのは綿密な動員計画があったから、いや、侵攻するつもりで問題を起こす準備すら行っていたのではないのか?」


 スティムソンは解決済みの満州事変について蒸し返す。


 アメリカからすれば支那問題で梯子を外されラストフロンティアから実質的に追い出され、しかも、その横で日本が満州を抑えたことに屈辱だと感じている者は多く、陰謀論が罷り通っていた。


 無論、スティムソンは陰謀論を端から信じているわけではないが、それでも事実と符合する点が多いことから笑って見逃すほどではなかった。


「なるほど、貴国は支那における一連の動乱において我が帝国を敵視なさっていると……それによって我が帝国のやることなすことすべてに疑念を抱いているというのですな? なんと嘆かわしい……。我が帝国は貴国との友好を今でも重要視しており、民間においてもその交流は一段と密になっておるというのに……根も葉もない陰謀論でその友誼を台無しにしたいと……」


「そうは言っておらん。だが、貴国の行動には裏の意図を感じずにいられない。これは友好国として一歩引いた付き合いをしないと何時我が身に災難が降りかかるかわからぬと案じておるのだ。特に我が国はフロンティア開拓で成長してきた国だ。降りかかる火の粉は振り払って自分の力でことを為してきたのだ……だからこそ貴国との付き合いには慎重とならざるを得ない」


 若槻とスティムソンの睨み合いは続く。

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