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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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戦車の父

皇紀2583年(1923年)3月26日 帝都東京


 東條英機少佐は有坂総一郎を伴い、この日、陸軍省技術本部に訪れていた。


 東條の目的は一つ、東京帝大工学部機械工学科を前年に卒業し、この3月に技術本部へ配属されたばかりの技術将校に会うことである。そのために総一郎を呼び出し……もとい、事実上拉致して……ここにいるのである。


 連れてこられた総一郎は何が何だかさっぱりわかっていない状態であり、車から降りた時から東條に苦情を述べ続けている。


「有坂君、大事の前の小事だ。いい加減機嫌を直したまえ」


「少佐、用件も言わずに連れてこられた身にもなってください。私は社用でそれなりに忙しいのですよ」


「君にも関係のある話だ……前世では小松が実用化していたがな……君の会社で量産してくれると良いと思っているのだがなぁ……」


 東條は持って回った言い方で総一郎に利益供与すると言い出した。


「小松?」


「あぁ、そうだ。前世で海軍が小松に持ち込んで作らせたソレを君にやって欲しいのだ……君にしか頼めない類の話だからな」


 総一郎はますますわからないという表情で困惑するだけだったが、東條は技術本部の廊下をどんどん進んでいった。


 東條が目的の場所について標識を確認し、部屋の中に入った。


「原中尉、先程電話で連絡した東條少佐である」


 部屋にいた原と呼ばれた技術将校が東條に敬礼をして返した。


「少佐殿、こちらにお出でになるとは聞いておりましたが、御用件は一体? それと……そちらの若い方は?」


「うむ……少し長くなる……そこの応接室で話そうか」


 原は頷くと応接室へ東條たちを案内した。


 応接セットに落ち着いてから東條は口を開いた。


「さて、原中尉、君は機械工学を専攻し、戦車設計をテーマとした卒業論文を帝大で提出したそうだね」


「ええ、そのおかげでここ技本に配属していただいております……それが?」


「うむ……戦車ではないのだが……戦車と同じようなシャーシを使った特殊車両の設計を依頼したいのだ」


 東條の提案に原は何とも言えない表情をした。


「少佐殿、特殊車両と言われましても……どのようなものを?そして、そちらの方は民間の方でしょうが、これと一体どんな関係が?」


「この特殊車両とそこの彼とは非常に重要な関係がある。いや、中尉、君と、そこの彼、有坂重工業社長の有坂総一郎君はお互いに協力し合って欲しいのだ……どちらが欠けてもこの事業は成り立たない」


 原は複雑な表情をした。


 有坂重工業と言えば、昨今、陸軍でもよく耳にする新興企業だ。ここ技本でもその名を聞かない日は少ない。時折、有坂重工業の技術者が技本にも訪れるし、その逆で陸軍の技術将校が有坂重工業へ出向くこともある。


「有坂の若社長と私がですか?」


「そうだ。この事業は、我が帝国の未来に大きく影響する……これの開発がなければ、これからの戦は出来ぬし、国力を高めることも出来ないとこの東條は断言する」


 総一郎は東條の言葉に一歩引いた感じで様子見をしていた。


「少佐殿がそこまでおっしゃるのであれば、私としても伺わないわけには参りませんが……」


「ブルドーザーを作って欲しい」


「ぶるどーざー?」


「あぁ、ブルドーザーだ」


 原はそれが何か理解出来なかった。


「少佐殿、ぶるどーざーとは一体何なのです? 何をする機械なのでしょう?」


「こう……車体の前面に曲面構造の鍬みたいな鉄の一枚板を配置して……進行方向に土砂を押し出すものだ……」


「鍬が掘り起こすのに対して、そのぶるどーざーのそれは押し出すのですね?」


「そうだ……そして、その鍬状の一枚板を排土板というのだが、当然のことであるが、車体の発動機の馬力によって性能が変わってくる……」


「そうなると……自動車や自動貨車の様なものでは駄目なのですね?」


「あぁ、そうだ。戦車の様な馬力の必要とする代物だと考えるべきだろう……」


「では……陸軍騎兵学校にあるルノーFTみたいな車両が良いと?」


「あぁ、それで構わない。そいつに排土板を付けて、それを油圧で角度調整など出来る様にしたら私の考えるブルドーザーとしては上出来だろう」


「なるほど……しかし少佐殿、そんなもの良く思いつきましたね?」


「……それはだな……そこの有坂君が欧米から仕入れてきた情報なのだ……」


「さすがは欧米、面白いものを考えつくものです……しかし、それを実用化するには工業力が……」


「それは大丈夫だ。君も有坂重工業の話は聞いておるだろう……多数の工作機械と流れ作業で大量生産……国内に居ながら欧米の底力を体感出来る企業だ……彼の会社と組むのはそれが理由だよ」


 ようやく総一郎は一連の東條の行動が読めてきた。


 欧米発の断片情報という形で国産ブルドーザーの開発と量産を進めるという大胆な東條の思い付きに付き合わされたのだ。


 事態を飲み込めた総一郎は口を開いた。


「原さん、あなたの専門であり、生き甲斐ともいえる戦車開発とこの話は大きく関係します。大馬力の発動機が開発出来れば、大口径、重防御、高速力の戦車の開発が可能になりますし、ブルドーザー開発における経験は必ず戦車開発にも活かすことが出来ます」


「あぁ、有坂君の言う通りだよ……どうだろう、中尉、乗ってくれないか?」


 原は少し考えてから答えた。


「では……設計は引き受けましょう……ただし、私も考えもつかないものを依頼されたのですから試行錯誤しないと適当なものを作る自信がありません……有坂重工業から研究資金と資材の提供はお願いしますよ」


「全く構わない……その辺りは任せて欲しい……中尉、頼むぞ!」

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