表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

436/910

ロンドン軍縮会議<3>

皇紀2590年(1930年) 2月15日 大英帝国 ロンドン


「今頃は日本大使館には抗議が集中していることだろうな。そうは思わんかね、バロン・ワカツキ」


 ロンドン軍縮会議の席上、ラムゼイ・マクドナルド大英帝国首相は大日本帝国全権若槻禮次郎に声を掛ける。


「まぁ、そうでしょうな。本国、帝都東京においても関係国から外務省に抗議の列となっているでしょう。ですが、帝国は国是八紘一宇の示すところ大義を為さんと意思表示をしたまで……貴国も昨今の東欧の情勢には頭を痛めているはず……やっと戦後復興も進んできたというのに新たな火種をせっせと作り出す隣人たちには辟易しているのではありませんかな?」


「……まぁ、そうですな。それは認めよう。どことは言わないが、寄ってたかって弱い者いじめをしている国々の後ろ盾をしている国家もあることですからな」


 若槻の言葉にマクドナルドは応じつつフランス外務大臣アリスティド・ブリアンに視線を向ける。ブリアンはバツの悪そうな表情を浮かべるがすぐに澄まし顔になり紅茶を啜る。


「しかし、日本帝国は要らぬとまでは言わぬが欧州情勢にまで介入するなど一体どういう風の吹き回しですかな? 欧州大戦では海軍艦艇しか送らずに高みの見物をしていたというのに」


「我が帝国は列強の一角として国際連盟の常任理事国となっておるのです。海峡委員会でも末席に加わっておりますし、そこまで不思議なことではありますまい。また、とある皇帝家と我が皇室は友誼を結んでおり、我らが陛下は亡命皇帝家の近況に胸を痛めておられまして……な?」


「……なるほど、筋は通っておりますな……”我が帝国は友邦が困った際には手を差し伸べることを厭わない”でしたな。では、なぜ大戦直後からそれをなさらなかったのですかな?」


 ブリアンは若槻の返答に続けて質問を重ねる。


 ブリアンからすれば我関せずで来ていた日本の欧州政策が変わったこと、それが積極的な介入方針に変わったことは迷惑であり、理解出来ないものだった。それこそ日本の国際感覚ゼロの認識からすると異常だとしか思えないのだ。


「簡単なことですよ。我が国力、軍事力がそれに見合った実力ではなかった。ですが、今は異なりますな。この会議でもそうですが、我が帝国は他の列強が何を言おうと我を通す実力が備わってきていいる。そして、列強各国も我が帝国の言葉を行動を無視出来なくなった……それが理由……これでは納得出来ませんかな?」


「ほぅ……」


 ブリアンはそう呟くとそれ以来口をつぐんだ。何を考えているかわからないが、日本側態度の変化を理解したようではあった。


「そんなことはどうでも良い。我々は陰気なロンドンに来て1ヶ月、未だ軍縮会議で結論を出せておらん。本国からも結果を出せとせっつかれている。そのような道楽話などに興味はない。欧州のことは欧州人が面倒を見ればよいだろう……東洋人がしゃしゃり出る幕ではなかろう」


 アメリカ合衆国国務長官ヘンリー・スティムソンは苛立ちを隠さずに脇道にそれる会議を本筋へ戻そうとする。


 彼は国務長官に就任して以後、「紳士は互いの郵便を盗み見ない」として暗号解読チームの閉鎖を指示したことでロンドン軍縮会議だけでなく、各国の外交通信を事前に把握出来なくしてしまった。これの是非は兎も角として、会議の参加国が建前ではなく譲歩出来る部分についての情報が入らなくなったことは席上でのやりとりで有利な条件を引き出す必要があったのだ。


 しかし、会議は若槻演説によって欧州における戦後処理の不味さと東欧各国の復讐という名の迫害行為を白日の下とされたことでどうしても本題からそれてしまいがちだった。


 彼も弁護士であるからその技量を以て暗号解読によらずとも議場で相手の意図を読み取ることで優位に立つ自信はあったが、それらすべてはしごを外されてしまった形となったのだ。


「スティムソン長官、陰気なとは失礼ですな。ロンドンは七つの海を支配する大英帝国の首都ですぞ? 植民地人の失礼な物言いはまぁ仕方ないと捨て置いて、日本帝国の欧州への介入は下手に我ら欧州各国が介入するよりも中立的であるとは思う……我が大英帝国としてはお手並み拝見と行こうと考えておる。イタリア代表団はどうかね?」


 マクドナルドは”陰気なロンドン”に対して”無礼な植民地人”と一蹴しイタリア外務大臣ガレアッツォ・チャーノに話題を振った。


「そうですな。マクドナルド首相と同じでお手並み拝見と考えております……無論、列強の事前同意を得ること、相談をすること、これが条件だと思いますが……我が国もアドリア海が安定するのであればそれに越したことはない」


「では、決まりですな……日本帝国には我ら列強の一角としての大仕事を一つ任せたい……なに、我ら列強はいつでも相談に乗る困ったことがあれば申し出ていただきたい……相談料は安くしておこう」


 マクドナルドはチャーノの同意を得るとそう言って東欧問題について締めくくった。


「さて、では、本筋に戻ろう。戦艦の建造枠と保有枠についてだが……再度、各国の要望を提示していただこう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ