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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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駐英大使館<1>

皇紀2590年(1930年) 2月15日 大英帝国 ロンドン


 若槻演説によってポーランドのダンツィヒ自由市への不当介入に対してドイツ=ワイマール共和国は正式に自由市の尊厳を踏みにじるものだと非難をするに至った。


 ヴェルサイユ体制によってダンツィヒはポーランド回廊の海の出口としての機能からポーランドは重要視し自国領土の一部が如く扱っていたが、当然ドイツ系住民はこれに反発し、ポーランドへの対決姿勢を露わにしボイコットや堤防補修のサボタージュを繰り返した。


 自由市の成立直後からこのような不穏な状況にポーランド政府も業を煮やし、自分のモノにならないダンツィヒを干上がらせるため近隣のグディニアに重要港湾を建設を開始した。


 当初は予算不足などによって進捗は思わしくなくなかったが、フランスと協同での開発が決まると今までの遅れを取り戻すかのように急ピッチに開発が進んだ。これによって26年頃には水深7mの避難港、南埠頭、北埠頭の一部、鉄道などが完成し、船荷の積み替え用施設も完成間近となり、ダンツィヒよりも近代的な港湾設備が整いつつあった。


 また、30年年始時点では乾ドックも完成間近となり、年内の完成を見込み、拡張された港湾施設だけでなく、倉庫、穀物加工工場などの物流施設・加工施設が完成しており、さらに冷蔵倉庫などが建設中となり、欧州でも屈指の巨大港湾施設となっていた。


 つまり、ダンツィヒはポーランドの我儘で横暴な仕打ちを受け、不当に経済的圧迫をされ、外交権を取り上げられるという屈辱の日々を過ごしていたのだ。


 それに対し、若槻禮次郎のメッセージはドイツ国民、ダンツィヒ市民に勇気を与え、同時にダンツィヒの現在の問題を取り上げたことに称賛の声が上がったのである。


 そんな中、大日本帝国駐英大使館にとある国の外交官が車で乗り付けてきた。


「ドイツ・ポーランド間の問題を国際問題として取り上げたおかげで我が国への非難の声が上がり迷惑この上ない。それどころか、バロン・ワカツキを英雄扱いする始末……これは日本帝国の内政干渉でありますぞ」


 ポーランド駐英大使は松平恒雄駐英大使に苦情を言いに態々出向いて来たのだ。だが、彼は社交辞令もなしに松平に向かって抗議するのであった。


 もっとも松平もこうなることは想定済みであったのか、肩をすくめ応じた。


「これはスマートでは御座いませんな? 外交官たるもの、冷静でなくては……それで、貴殿は貴国を代表して我が帝国へ抗議に参られたのですが、残念ながら、我が帝国は貴国の抗議を受け入れるわけにはいきませんな」


 日本側の結論を先に述べることで相手の言い分を言わせないように封じたのだ。


「我が帝国は欧州大戦後の醜い弱い者いじめに対し、異を唱えたのであります。貴国にも言い分はあるでしょうが、行っていること、その事実は明確にドイツ系住民への迫害でしかありません。ドイツ系住民が反発するのは当然のことです」


「しかし、貴国は欧州大戦時に我がポーランド国民を助けてくれたではありませんか、両国の友好を考えると手の平を返すが如く振る舞い。それは我が国にとって深い失望でしかありませんぞ」


 ポーランド孤児の救援の話題を出してきたが、彼はそれが更なる松平の態度硬化につながるとは思っていなかったようだ。


「大使閣下、残念ですが、それは我が帝国の国是、八紘一宇の体現であり、此度のダンツィヒへの同情とドイツへの肩入れもまた同様です。ただ、此度はポーランドが加害者であり、ドイツが被害者であるという話であります……我が帝国の立場は一切変わっておりません。我が帝国は仲介の労を取る用意はありますが、今の貴国は自国が被害者だと思い込んでいる様ですから何を言っても無駄でしょう。それに貴国の不当な行動は何もダンツィヒに限った話ではありませんな? ガリツィアのことも我が帝国は問題視しております」


 松平はそう言うと懐中時計を取り出して時間を確認する。


「さて、大使閣下、残念ですが、貴国以外にも我が帝国に抗議を述べに来られる国がありましてな……某国の大使閣下がそろそろお出でになられるのですよ。全く千客万来で忙しいことですな。さ、御帰りはあちらです」


 有無を言わさず退室を促す松平であった。ポーランドの大使は体よく追い払われた形となり悔しさを滲ませつつ最後に言い残した。


「我が国の後ろ盾にはフランスがいるのですぞ? その結果がどうなることか、そのうちご理解されることでしょうな」


「左様ですか、では、御忠告、心に刻みましょう」

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