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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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女神の名を持つ才媛<1>

皇紀2590年(1930年) 2月11日 アメリカ合衆国 ニューヨーク


 有坂コンツェルンのニューヨーク支社はニューヨーク海軍工廠があるブルックリン・ネイビーヤード湾を眺め見ることが可能なイーストリバー公園にほど近い場所にある。一般的には住宅地が広がるが、支社開設時に有坂総一郎が「住宅地と地下鉄が至近で、公園が近い方が社員にとっても良いだろう」と他の場所が適当だとする意見を退けて26年に設置したのだ。


 無論、その理由は表向きであったが、実際に支社のスタッフにとっても都合が良いためその設置は結果として正解であった。また、甘粕正彦率いるA機関の活動拠点ともなっており、海軍工廠の様子を定期的に観察記録していた。


 ニューヨーク支社の主は日本人ではなかった。現地採用の社員であり、弁護士資格を持つ女性支社長だった。彼女の名はアルテミス・フォン・バイエルライン。ドイツ系移民の子孫である。06年7月生まれで30年時点で24歳の才媛である。


 彼女は24年に総一郎が欧米歴訪した際に現地案内役としてスカウトした人物だったが、ヘンリー・フォードとの繋ぎを作るなどその手際の良さから手腕を買われてそのまま総一郎直轄のコーディネーターとして嘱託を経て、正式に26年にニューヨーク支社が設立されると支社長へと抜擢された人物だった。


 その彼女は自身のオフィスにおいてとある人物と会っていた。これは箱根において東條-有坂枢軸の会合が行われる1年前の29年2月のことである。


「アルテミス、キミは合衆国においても屈指の逸材だ。このような東洋の企業のチーフなどしている様な人材ではない。どうだろうか、合衆国のために働く気はないかね?」


 サングラスを付けた恰幅の良い黒服たちのリーダー格の人物はアルテミスに提案する。


「私はチーフではないわ。アリサカUSAのチェアマンであり、トーキョーの本社だけでなく合衆国に対しても恥ずべき仕事はしていないわ。国家への貢献は十分に行っているはずよ」


「ええ、存じておりますよ。ですが、どうでしょうか? ”神々”に選ばれた我々合衆国こそが世界に冠たる存在。その一員にしてハーバード大学を飛び級で卒業した逸材が、このような場所でくすぶっているのは適当だとは思えないのです……我らが上司は貴女のその才能を埋もれさせるには惜しいと常々申しております……如何でしょうか? 再考願いたいと……」


「くどいわね。私は自分の分を弁えています。それにあなた方に協力するということは私にアリサカ本社を、彼を裏切るのと同じことなのですよ。そのようなこと出来るわけがありません」


 黒服たちはアルテミスの反発に実力行使をするかのような動きを見せたがリーダー格の男はそれを制止する。


「それは誤解というもの、今の米日関係をよく考えていただきたい。今のままでは彼らは遠からず自滅の道を進むことになりかねない。それを未然に防ぐのは貴女なのだと……それが出来るのは合衆国に貢献し、トーキョーと繋がりを持つ貴女でなければ出来ないこと……そう、貴方が合衆国と日本を救うべきポジションにあるのです」


「私が彼らを救う? どういうこと?」


「フフフ……我々と協力することで米日摩擦が減り、結果として貴女が愛する人物を救うことになるのです……どうですか、この書類を一読いただけましたらご理解の一助になると思いますが……開封と保管に関しては注意願いたいと……」


 アルテミスは即答出来なかった。だが、黒服たちにはそれで十分だった。即答出来ないということは彼女の中で信念が揺れているということだからだ。


「……返事はしないわ……」


「ええ、結構です。また何れ近いうちにお会いすることになるでしょう。その際に伺いましょう。では、失礼させていただきます。帰るぞ!」


 黒服たちは用が済んだらさっと退室していった。


 残されたのはハードカバーの資料と表情に影が差したアルテミスだけだった。


 そして、1年後、アルテミスの決断が大きく有坂総一郎と東條-有坂枢軸の面々の未来展望を狂わせるのであった。

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ハーバードは当時男子校だよ。 女性は入れない。
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