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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2590年(1930年)

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紀元節<4>

皇紀2590年(1930年) 2月11日 帝都東京


 商取引が介入され満州における油田開発の邪魔をしているという事実を突きつけられた一同の表情は深刻であった。


「これは非公式に入手したものである以上、表に出すことは出来ない……となると、アメリカ企業からの採掘機械の導入は調達計画に対して今後も妨害と遅延が続くということだな?」


 岸信介はいち早く立ち直ると自身の手帳を取り出すとノートにいくつかのメモを記入しつつ尋ねた。


「ええ、そうなりますな。ただ、現在、満州における油田開発を当初予定通り進めるべくイギリス企業に切り替えるべく交渉を進めておりますから正式な契約はまだ暫くかかりますが、好感触を得ているのでそちらは問題ありませんな」


 出光佐三は岸の質問に答えると続けて言いにくそうな表情をしつつもある事実を伝えた。


「実は蘭印産の石油の輸入も少しずつだが減っていることに気付いたのですよ。月ごとに輸入量が増減していることで目につきにくいが、明らかに前年度よりも輸入量が減っている。これは同業他社でも似た傾向の様で、国内に入ってくる量が不足しつつある」


「石油というが、原油か? それとも重油か? ガソリンか?」


 岸は出光に何が不足しているか明確に迫った。


「ガソリンですな。重油や軽油の量は増えていることで総量はいつも通りですがね。ガソリンと機械油などが目減りしている。価格が特に上がっているわけでもなく、むしろ恐慌のおかげで値下がりしつつあるのだが……重油は平価の8割台で割安になっていることで輸入量が増えたように見えているが……」


「ガソリンがなくては車は動かせんし、飛行機も飛ばせん。それに潤滑油はアメリカ頼りであるのに手に入らんのではどうにもならんではないか! これでは兵糧攻めをされている様なものだぞ」


 中島知久平は出光の言葉で何が起きているかを察した故に声を荒げた。


 有坂重工業などで精密機械、工作機械が量産されるようになったが、機械油はアメリカからの輸入に頼っていたのだ。特にペンシルバニア産エンジンオイルの様な製品は日本では生産されていない。


 それどころか、日本ではその殆どが原油輸入というよりも製品油の輸入が大きく、精製施設自体が多くないため数少ない製油所はガソリンや重油、軽油などの生産で用いることで機械油や潤滑油などには用いられていない。


 史実において潤滑油は航空機運用に大きく影響を与えていたが、四式戦闘機疾風の運用部隊においてその違いは見て取れる。91オクタン価の航空燃料を使いながら稼働率に大きく差が出た違いが潤滑油ではないかと推察しているものもいる。エンジンの性能やガソリンの性能ではなく、用いるべき潤滑油の質が稼働率を大きく左右したと……高実働率を誇った飛行第47戦隊では、再生潤滑油の使用を厳禁し、実働率100%を誇った飛行第104戦隊では満州の補給廠に在庫していた米国製潤滑油を使用し、支給されていた航空鉱油乙(再生潤滑油 廃油をフィルターで濾したもの)を廃棄し、使用させなかったという。それゆえにエンジントラブルが激減し、結果稼働率を維持出来た可能性が高い。


 史実において満足な潤滑油一つ製造出来なかった大日本帝国だが、この世界でも残念ながら後回しにせざるを得ない。これはひとえに精製技術であり、その能力が低い状況では当然の結果だとも言えた。だからこそ中島は機械油が減っているということで潤滑油も必然として減っていると直感で気付いたのである。


「全く、中島さんの仰る通り。我が出光は全力で徳山の製油所を建設中であり、完成すれば外国頼りの潤滑油などを自前で生産出来る様になり、こんな不愉快な嫌がらせを跳ね除けるのだが……」


「今はないものを強請っても仕方はない……商工省から大英帝国大使館を通して交渉しよう。英国産でもないよりは遥かにマシだ」


 岸も出光の悔しさがわかるだけに現実的対応でしのぐしかないと判断した。

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