表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2589年(1929年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

418/910

二人の日常と平賀譲の見解

皇紀2589年(1929年) 12月9日 帝都東京


 ムッソリーニ(ドゥーチェ)の建艦宣言は列強各国にセンセーショナルなニュースとしてあっという間に拡散された。


 無論、大日本帝国も同様であり、海軍関係者はひっきりなしに海軍省と艦政本部、大手造船メーカーに出入りし情報収集を行っている。建艦の権威である平賀譲造船少将もバタバタとしている。


 転生者たちにとっては寝耳に水であっただけにこの一件は年明けの軍縮会議にも影響を及ぼすことは間違いなく、巡洋艦は兎も角、戦艦の建造を自粛している日本にとっても例外ではなかった。


 丸の内に移転した有坂コンツェルン本社ビルの主もまた想定外の事態に困惑の表情を隠せなかった。


「ドゥーチェがやらかすとは思わなかったなぁ……それもこのタイミングで……」


 デスクに広げられた新聞を見ながら何とも言えない表情で有坂総一郎は湯呑に手を伸ばす。


「……なんだもうお茶ないじゃないか……」


 朝から仕事を放置して新聞の同じ記事を眺めて唸っているのだから当然だ。


「いい加減仕事してください。会長。貴方の仕事は全く減っておりませんわよ」


 妻にして秘書兼執行役員である有坂結奈は仕事をしない彼にそう言う。


 彼女はこの春に仕事をしないで歴史改変と政治的行動(遊び)にかまけている会長兼社長を監視しつつ社内業務を捌かせるために役員会が執行役員に推薦し満場一致で押し付けたのである。


 無論、彼女は自分の割り当てられた仕事はとうに終わらせ、社内の様子を見て会長室に戻ってきたのだ。


「いやぁ、だってさぁ……」


「だっても何もありませんわ! この決裁、午前中にしないと駄目と言いましたわね? なんで出来ていないんですの?」


 いつものこととは言えど、いつも以上に仕事をしない彼に彼女は苛立ちを覚える。だが、かと言って、彼の仕事を自分でしてしまうというのは違うと考えている彼女は彼が動くまで辛抱強く待つ。


「ドゥーチェがいけないんだよ。予定外の行動するんだもの」


「ドゥーチェは国を背負っているのですから仕事をしているのです! 貴方は会社を背負っているのに仕事をしていないのですよ! その違いわかりますかしら?」


「……えと、悪い。すぐやるから……」


 結奈は総一郎の前で仁王立ちをしたまま彼が仕事をするのを監視している。


「口を動かす前に手を動かしてくださいな……それと1時間以内に終わらせないと平賀さんとの会食をキャンセルしますからそのつもりで」


 彼女の言葉に嘘偽りはなく、有言実行あるのみだ。結局、タイムリミットに間に合わなかった彼には宣言通り平賀との会食はキャンセルされ、会長室に缶詰めされたまま非常食のカンパンが与えられ昼食時間中も業務遂行が命じられたのであった。


 総一郎との会食をキャンセルされた平賀だったが、結奈は代わりに応対し、イタリアの新型戦艦についての平賀の見解をしっかり聞いていたのである。


「いつものことだ。なに、土産も貰ったし言うべきことはないさ」


 と平賀は上機嫌であった。


「イタリアの建造技術そのものは悪いものではない。腐っても列強の一角を占める存在だ。だが、問題は我が国と同じで製鉄と装甲板の製造だ。ここが解決出来ないのでは防御力に問題が出てくる。これをどう解決するか……ドイツやイギリスから技術導入するのであれば可能性はあるのだが……」


「我が国でも製鉄に関しては鋭意努力をしているところですものね……ええ、旦那様には伝えますわ。何か彼が思いつくかもしれません……海軍からイタリアへの査察と軍縮会議には誰が出向く予定ですの?」


「あぁ、大角大臣が豊田貞次郎大佐と次官の山梨勝之進中将を出すと言っていたよ……そう言えば、豊田君は訪英団に居てイギリスの製鉄企業などを見に行っていたから人脈が出来ていたな」


 平賀はそう言うと考えこんだ。


「平賀さん?」


「あぁ、大角大臣に随行員に私も加えてもらう様に交渉するとしよう……結果はまた知らせる」


 そう言うと平賀は大急ぎで玄関ホールに向かい、差し回しの公用車を海軍省へ走らせたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ