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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2589年(1929年)

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世界恐慌と無関係の国<1>

皇紀2589年(1929年) 10月31日 帝都東京


「始まったねー」


 有坂総一郎は自邸で寛ぎながらお茶を啜っていた。


「暢気ですわね。明日は我が身という言葉を旦那様はご存じない?」


 有坂結奈はジト目で総一郎に応ずる。


 太平洋を挟んだ大日本帝国には世界恐慌の余波は全くなかった。どこかの時点でいくつかの企業は倒産するだろうが、少なくとも日本において恐慌による影響はそれ程大きくはないと踏んでいた。


 史実の日本であれば間違いなく銀行の取り付け騒ぎや企業の倒産が続発しただろうが、今の日本は大正末期から続く列島改造景気によって好景気が続いている。


 財閥系の軍需メーカーは張作霖爆殺事件から始まる満州事変(閣議決定によって正式名称として確定)による兵器増産で工場の増築や設備の更新が続いており、また造船業界も巡洋艦や輸送船舶の建造によって発注残が積みあがっている。


 鉄道省と関係が深まった自動車産業や鉄道車両メーカーは列島改造計画による増産が続いていることもありこちらも好調な業績を示しており、部品の国産化による外国企業頼みの状況を脱しつつあったことで世界恐慌の影響は全くと言って良い程ない。


 石油関係も遼河油田の開発(実効支配と英国資本の進出)が進んだこともあり順調に操業し、施設の増築も順次行われている。ただ、ここは世界恐慌の煽りを受け始めていた。プラントや採掘機械などがアメリカ企業からの輸入であったことから更なる設備投資にストップが掛かっているのだ。


「遼河油田の設備投資に影響が出ていると報告が来ているわよ? 設備を発注したメーカーの資金のやりくりが難しい状態で予定通りの納品が無理だと……これ、財務状態次第ではそのまま潰れてしまうんじゃないかしら?」


 結奈は届いているレポートを見ながら現状の問題を指摘する。


「来週ぐらいにアメリカ支社に買収の提案を出させるべきかな?」


「手遅れとは言わないけれど、しないよりはマシじゃないかしら? でもね、問題があるのよ……。最近、日系企業に対して商務省からの有形無形の嫌がらせがあるということだから買収がうまくいくとは限らないわよ?」


 結奈の指摘は総一郎にとっても頭痛の種の一つだった。


 日英の結びつきが史実よりも格段に強化されたことでアメリカは一人面白くない思いをしていることで彼らの捻じ曲がった正義感と憎悪を買っていた。


 これによって対英は兎も角、対日は明らかに悪意があるとしか思えない条件が提示されたり、明らかなサボタージュとしか思えない公文書の受け取り拒否や担当者不在を繰り返されるようになったのだ。これは有坂コンツェルンだけでなく、三大財閥をはじめとする対米貿易企業は例外なく受けている嫌がらせだった。


 そのため、カナダ系企業やブラジル系企業などをトンネルさせることで迂回輸出・輸入を行うこともしばしばだった。当然、そのために余分なコストが掛かることで自然と対米輸入は減っていくという悪循環だった。無論、これはアメリカ経済にもダメージを与えているのだが、彼らにしてみれば「日本に売るものなんてない」と割り切ればそこまでだったのだ。


「民間企業同士は上手くやれているのに、商務省は面白くないのだから仕方ないよな……」


「これ、どう見ても損をしているのはアメリカなのだけれど、それくらい素人でもわかると思うのだけれど」


「仕方ないさ。彼らの顔に泥を塗りつけたのは我が帝国なんだから……」


 そう言った総一郎に結奈は呆れた表情で言う。


「帝国ねぇ……それを裏から糸を引いている黒幕が言うセリフじゃないと思うのだけれど」

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