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岡村、上京す

皇紀2582年(1922年)12月18日 帝都東京


 この日、小倉の第14連隊に所属する岡村寧次少佐が陸軍大学校へ訪れた。彼の目的は陸大教官となった東條英機少佐に会うことであった。


「東條、貴様の想像通りの惨状だ……。あの東條論文は今回の島原地震で証明されたと言って良いだろう……特に昼間の地震の被害は地獄絵図と言うべきものだ……昼飯時で至る所で出火し、倒壊した木造家屋が次々と燃え上がって被害が拡大していたと報告が来ている……」


 岡村が訪れた理由は、12月8日に発生した島原地震の被害状況についてのものだ。地震発生の報告が入った段階で東條は小倉の岡村に電話をかけ、被害の状況分析を依頼したのだ。


 東條の依頼を受けて岡村は第14連隊長である土方清大佐に働きかけ、斥候訓練の名目で現地へ出動し、救護活動と被害状況把握を行ったのだ。


 活動を終えるとすぐに彼の大隊は小倉へ戻り、彼自身は下関から特別急行に乗り上京したのである。


「岡村さん、この資料はとても助かります……また、あなたの指揮は今後陸軍の災害派遣の土台となりますので、研究させていただきます」


「活用してくれるならそれが一番だ……あの惨状が帝都でも起き得るなら、文字通り帝都は焼け野原になりかねん……」


「島原と違い、帝都近辺は800万近い人口……焦土化は避けられないでしょうが……備えがあれば幾分かは変わりましょう……」


「うぅむ……そうだな……」


 帝国議会や東京市議会などで東條論文と帝大教授陣の論争が活発化している中で、実際に発生した地震での被害想定と実被害の比較は大きくものを言うことは間違いなかった……。


「そう言えば……有坂重工業が被災直後に送ってきた簡易住宅……ぷれはぶ……とか言ったか? アレはすごいな……あっという間に建てることが出来、すぐに入居出来るというではないか……」


「そのようなものがあるのですか?」


「あぁ、あれは現代の一夜城だな……アレを応用したらシベリアでも塹壕なんてもんじゃなく、もっと過ごしやすい環境の要塞が作れるんじゃないのか? そう思ったよ」


 東條は総一郎がそんなものを作っているとは知らなかった。


 岡村は斥候訓練名義で出動した災害派遣でプレハブ小屋の設置を目にして興奮しそれを詳細に記録していたのだ。同時に、陸軍省向けに野戦築城に応用出来ると報告を書いていたのだった。


「なるほど……だからあやつは……」


「東條、貴様、有坂重工業の人間と知り合いなのか?」


「先日、社長の有坂総一郎と会いましたが……若いが食えない奴でしたよ……」


「ほぅ……カミソリと名高い貴様が……食えないと評するのか……面白い……私も会ってみたいものだな」


「そのうち、岡村さん、あなたの元にもアレは顔を出すと思いますよ……あなたも有名人ですから……」


 岡村は東條の言うところの有名人の意味を理解出来なかった。

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