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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2589年(1929年)

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北海道の産業軸構築

皇紀2589年(1929年) 7月17日 北海道 俱知安


 大正年間から開発が始まった俱知安鉄山に史実よりも早く大規模重機の投入が始まった。


 元々、俱知安鉄山で算出する鉄鉱石は多量の水分を含んでいたため、輸送過程、冬には凍結といった不都合があり、受入先の製鉄所での支障もあることから、水分を減らすために乾燥炉の設置によってこの問題に対応していたが、史実では44年には廻転乾燥炉(ロータリーキルン)を建設しこれによって効率を高めていた。


 また、乾燥だけでなく、同時に乾燥炉において鉱石の品位を向上させるために石炭を一緒に装入し、

石炭燃焼により過熱脱水(焼成)して焼鉱した。焼成(焙焼)とは鉱石や精錬の中間生成物を溶融しない温度で加熱し化学反応を行わせる工程で鉄鉱石には脈石スラグが含まれており、炭剤(石炭)を還元剤として鉄鉱石と共に炉に投入することで品質向上を狙うことが出来るのだ。


 何しろ石炭は道内で産出するので輸送列車の復路に石炭を積み込んで往路には鉄鉱石を積み込むという高効率運行が行えることから鉄道省も俱知安鉄山の開発には力を注いでいた。


 特に夕張炭鉱からの室蘭(輪西)への石炭列車を途中で分割し、俱知安鉄山へ向かわせ、その帰り道に鉄鉱石を積んで行けばよいのだから鉄道省にとってはドル箱路線そのものであった。


 三井鉱山が俱知安鉄山の開発を引き受け、それに対して有坂コンツェルンが窓口となって欧州から導入したスチームショベルを大量に持ち込んだことで露天掘りの大規模開発が可能となったことが俱知安鉄山の採算性の拡大につながったことは間違いなく、史実の36年の導入より早期かつ大規模にしたのは鉱山の寿命を減らすことになろうが構わないという判断だった。


 有坂総一郎が国内鉱山でも俱知安鉄山を優先したのは他でもなく、露天掘りが可能な鉱山であり、尚且つ、夕張炭鉱など道内において輸送体系・生産体制を構築しやすいということが大きかった。


 また、同時に別の意図もここにはあった。室蘭輪西にある製鉄所は太平洋に面していることで艦砲射撃の可能性は否定できないが、史実ベースのB-29の通常装備(爆弾4.5トン搭載)で3400kmの戦闘行動半径の中にギリギリ入るのが室蘭(3049km)、札幌(3126km)、旭川(3193km)となる(※いずれもサイパンから)が、この場合、空中戦闘があった場合、帰還に余裕がないことから実際に北海道にB-29が飛来したことは少ない。


 史実における北海道への空襲は空母機動部隊による沿岸からの攻撃に限られていた。尤も、13隻もの空母から延べ3000機に及ぶ空襲であったというから戦略爆撃機の攻撃よりも相対的に被害は少ないにしてもそれなりに被害は出ている。だが、仮に艦隊の行動を抑えられるのであれば、空襲の可能性は除外出来る点は大きい。


 よって、既存の工業地帯に偏った産業の成長を促すのではなく、本土攻撃のリスクを分散させることで特に産業の要である製鉄産業の操業継続を図る必要があった。


 そういう意味でも俱知安鉄山、室蘭輪西製鉄所、夕張炭鉱という産業軸は大きな意味を持っていたのである。そして、釧路の造船所と組み合わせることで中小型船舶、艦艇の建造にもつなげる意図もあったのだ。


 無論、青函トンネルがないこの時代では北海道内が自給自足出来る様に発展させる必要があった。どう急いでも来たるべき大戦には青函トンネルは間に合わない。そうなると青函航路の死守は何が何でもしなければならない。青函航路の死守が出来ないということはそのまま日本海の制海権を失うことと同じ意味を持つからだ。


 俱知安鉄山、室蘭輪西製鉄所、夕張炭鉱という産業軸が軌道に乗ってきたら有坂総一郎は陸軍工廠を新設し、北海道内で自己完結出来る様にしようと秘かに計画しているが、それはまだ時期尚早であるがゆえに東條英機大佐にすら話してはいない。


 いずれにしても北海道における産業の成長がそのまま帝国を支える最後の砦になるようにと総一郎は考えていた。

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