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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2589年(1929年)

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世界恐慌へのカウントダウン

皇紀2589年(1929年) 2月11日 フランス パリ


 この日、アメリカ・ゼネラル・エレクトリック会長のオーウェン・D・ヤングを委員長とするヤング委員会がフランス・パリにて最初の会合を行った。史実通りにドイツなどの賠償支払い問題についての最終的な基本枠組みの構築である。


 だが、史実ではこのヤング案による賠償問題枠組み合意はそのまま”暗黒の木曜日”に端を発する世界恐慌の引き金となったのだが、さて、この世界では如何であろうか?


 この賠償問題の肝は日米という債権国が英仏伊という債務国から債権回収のためにドイツへ賠償金支払いを求めるという構図は全く変わっていない。尤も、日本のそれは微々たるもので、本質的にはアメリカが英独仏伊から巻き上げているという構図なのだ。


 この交渉が始まるとドイツ国内では国家人民党、鉄兜団や全国農村連盟、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)などは、ヤング案は「ドイツ国民奴隷化法」だと反発して反ヤング案闘争を開始した。だが、悲しいかな。ドイツ財界は実質的にはアメリカ資本に牛耳られていたこともあり国民投票が行われた結果、94.5%の圧倒的多数の賛成によりヤング案は批准された。


 しかし、ドイツ国民も腹の底ではこれに反発する機会を待っていた。それはすぐに来たのである。


 史実において暗黒の木曜日によって始まった世界恐慌、その後に続く世界経済の沈滞、ドイツ経済の事実上の崩壊、32年に日本の提案で開催されたローザンヌ会議を経てドイツの賠償額は圧縮され続けた。


 各国の努力は続いたが、ローザンヌ会議もアメリカ議会が対欧州債権放棄に同意しなかったため協定こそ結ばれたが批准に至らなかったのだ。その一方でヴェルサイユ体制の打破を訴えるヒトラーが首相に就任しナチ党政権の樹立されらのである。これによってドイツからの支払いは行われなくなった。


 この世界では如何だろうか?


 史実では景気後退の兆しは確かにあった。大戦景気はとっくに醒め、消費経済は沈滞傾向に向かっていた。そこに賠償金の減額という方針の発表……それはそのまま市場にダメージを与えるには十分だった。


 緩やかな景気後退期にありながらもアメリカ市場はバブル経済を維持していたのだ。株高を警告する者はいたが、多くのものはアメリカの繁栄と富を疑わず、株価の維持が可能だと信じていた。


 実際に、ニューヨーク市場の株価は28年から29年にかけて急速に上昇し、アメリカの一部に株投資ブームを起こしていた。29年の夏以降には工業指標は下向きはじめ、株高を危ぶむ声もあったものの、ウォール街や経済学者の中にはこれを一蹴する意見もあった。大暴落の直前、経済学者アーヴィング・フィッシャーは、「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」という有名な予言を行っていたくらいである。


 だが、この世界はそうした傾向があるのは事実であるが、27年のジュネーヴ海軍会議の影響もあり、巡洋艦の建造の縛りが緩んだこともあり一種の建艦ブームが起きている。


 これによってアメリカは16インチ主砲搭載戦艦を1隻建造し、また巡洋艦の建造を行っていることもあって工業指数の動きは堅調だった。極端に上がることもないが、一定水準を維持しつつ上向き気味であったのだ。


 また、30年にはロンドンにおいて海軍軍縮会議が再度開かれる予定であり、老朽艦の代艦建造の可能性もあるため重工業メーカー、造船メーカーはその為の設備投資を始めていることもあり、それがまた工業指数を支えていたのだ。

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