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装甲空母

皇紀2582年(1922年)12月10日 帝都東京


 東條論文を盾に各方面への震災対策を次々と水面下で実行していた有坂総一郎は、艦政本部の平賀譲造船少将を訪ねた。


 訪問の目的は保有枠を認められた、加賀型2隻と天城型2隻、そして廃艦となる扶桑型2隻についての相談である。


「少将、今回の訪問ですが、関東大震災対策で少しお話がありまして……」


 総一郎は開口一番そう言った。


「最近、色々と動いているとは聞いていたが……天城のことか?」


「左様で……今のまま船台上でチマチマと工事を続けては折角進水まで目処が付いているのに解体せねばなりません……それは勿体ないのです。ですから……昼夜兼行の工事を行っていただきたく……」


「それはそうだが……私の一存でどうにかなるわけではないぞ?」


「加藤海相には原総理を通して許諾をいただく方向で話を通しますゆえ……8月までに進水出来るようスケジュールを組んでいただきたいのです……。要は、海に浮かんでしまえば最悪破損しても致命的なダメージにはなりませんから……史実の様に盤木が崩れて横転し竜骨が折れるなんてことにならなければ良いのです」


 この時、建造中だった各艦は、加賀(進水済み・横須賀係留)、土佐(進水済み・呉係留)、天城(進水前・横須賀船台上)、赤城(進水前・呉船渠内)という状況であった。


 艤装工事が行える海軍工廠は呉と横須賀がメインであることから天城と加賀が非常に危険な状態であるのだ。


 当初、総一郎は海軍側に協力者(転生者)がいないことから天城は最悪史実通りに廃艦にせざるを得ないと思っていたが、平賀が転生者であり、今後の協力を約束したことで方針を転換したのだ。


「君の言いたいことはわかる。私とて救えるなら天城を救いたい。巡洋戦艦として誕生出来ぬなら、せめて航空母艦として……だが、それでも財政難の昨今だ。いくら海軍が八八艦隊をやめて予算が浮くとは言えど、政府がそれを簡単に認めるわけがないだろう……」


「大型艦船の効率的建造方法の確立という名目で我が社から予算を拠出します。海軍への献納です。それであれば、海軍は必要な人材と資材を集めてくればよいのです。ほら、鞍馬型巡洋戦艦の伊吹建造時にも同じ実験を行ってましたでしょう? アレを再現してくださればよいのです」


「確かにそんなこともあったが……横須賀鎮守府や横須賀工廠がどういうか次第だぞ?」


「では、海相、横須賀の根回しは行いますので、スケジュールを組んで資材調達など段取りをお願い致します……」


 総一郎のごり押しに平賀は呆れた表情をしていた。


「まったく、陸軍と付き合うとごり押しも感染すると見える……」


「軍のごり押しは天下無敵ですからな! さて、少将……この様なものを持参致したのですが、ご覧いただけますか?」


 総一郎はスケッチブックを鞄から取り出し平賀に見せた。


「……ん? これは……空母か?」


「はい、空母の外観スケッチです。ただし、私は素人ですので、細目は専門家である少将や造船技官にお願いしたいのですが……元は昭和16年に起工し、19年に竣工した大鳳のデザインです。少将は時期的にご存じないかもしれませんが……」


「その頃は軍務から離れておるからな……」


「要目だけ説明しますと……500kg爆弾の急降下に耐えうる装甲甲板を張り巡らしてあり、敵の空襲があっても耐えることが出来るものです……」


「ふむ……そうなると相当に低い高さに抑えないと重心が高くなって転覆の危険性があるな……」


「ええ、そのため実際には相当に狭い艦内環境であったと聞きます。また、かなり無理をして3万トンに抑えたことから各部に無理があったとも……」


「造船は条件との戦いだからな……」


「また、ダメージコントロールの面で問題があり、たった1発の被雷によって生じた気化ガソリンによる火災によって爆沈するという不名誉な最期を遂げております……」


「何が原因だ?」


「ガソリン庫に亀裂が入りそこから漏れ出したガソリンが気化したのと、被雷の衝撃でエレベーターが故障し、途中で止まったエレベーターの開口部を封鎖して滑走路の確保を行ったことで気化ガソリンが艦内に充満したことで応急修理が阻害されたことによるものです……これは密閉式格納庫という構造的問題でもありますが……」


「なんということだ……」


 平賀は頭を抱えた。装甲甲板が何の役にも立たなかっただけでなく、たった1発の被雷、それも実質かすり傷同然の被害でありながら、それに起因する小さな亀裂や電装品の故障という問題で爆沈するなど情けないにも程があると言いたそうな表情であった。


「ですが、この大鳳はけっして欠陥品というわけではありません……ミッドウェー海戦の敗戦から学んだ新機軸も随所に取り入れられていますし、海軍はこれを基本とした装甲空母化を決定していたくらいの自信を持つ艦だったのですから……」


「だが、それとて、応急措置や被害想定が機能していなければ無意味だろう……」


「ええ、ですが、我らは後出しじゃんけんを出来る優位性があります。折角、史実と違い、4隻も装甲空母に適した未成艦があり、その上、2隻も廃艦があるのですから……それを用いることが出来るという幸運が我らにはあるのです……」


 そこで平賀はニヤリと笑い言った。


「なるほどな……では、君の狙いは、大鳳の発想を活かした空母を最初から作っておいて、しかも、大鳳で足りなかった点を出来得る限り設計の段階で想定し、実質6隻もある実験艦で実用化させろというわけだな?」


「ええ、そういうことです。そして、そのためには貴重な実験艦である天城を失うわけにはいかないのです……絶対に!」


「わかった……装甲空母の設計案は任せたまえ、一から作るわけではないから、加賀型、天城型、扶桑型にそれぞれ合った形にせねばならんから最初は満足出来るものではないだろうが、少なくとも、史実の大改装後の赤城、加賀よりも良い艦を造って見せよう」


「お願いします」


 総一郎は立ち上がり平賀に握手を求め、平賀は力強く握り返した。

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