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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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憂国の士

皇紀2588年(1928年) 12月25日 帝都東京


 澄み切った青空が広がる帝都上空に1隻の飛行船が浮かんでいた。この飛行船にはとある要人が2人搭乗し密談を交わしていた。


「子爵、例の計画はどうなっているんだい?」


「どうもこうもない。海軍省は見掛け上の軍縮のために妥協したが、陸軍省は満州の一件で予算をこちらに回せの一点張りじゃ。噂の新型列車砲や装甲列車に予算を持って行かれてはどうにもならんじゃろう」


「政府のお墨付きを得ていたと聞いていたがそれはどうなんです?」


「事情が変わったから陸軍を優先すると言われてしまってな……目下、財界に援助を要請しているところじゃよ」


 子爵と呼ばれた男は元幕臣にして政財界の柱石の1人と言われる渋沢栄一子爵である。既に齢90ともなる老人だが、その瞳の力強さは全く衰えておらず、未だに政財界への影響力は絶大なものがあった。


 そしてもう1人、こちらはいくらか若いがそれでも齢70に達しようとする老将軍。彼の名は立花小一郎男爵、退役大将であり、シベリア出兵において最終的な勝利を得た際の浦塩派遣軍司令官であった。


 この2人はシベリア出兵勝利の後に提携してとある計画を立案、遂行していたのであるが陸海軍そして鉄道省の三つ巴の予算獲得合戦に巻き込まれる形でその計画は狂い遅延の一途を辿っていたのである。


「だが、このままでは何れ歪な形での経済成長が進んで取り返しのつかないことになる……」


「じゃがな、無い袖は振れぬのじゃよ……財界とて利益にならないことはしない。いくらこのワシが頭を下げようが彼らにとっては一銭の利益にもならない。それが赤化を招く要因であろうとだ」


「私はシベリアで赤化分子のそれを見てきたから良くわかっているのだが……連中はこの世の地獄の中に生きているだけに死など恐れないところがある。いや、生きているより死ぬ方が楽だと思っているのだろう」


「じゃが、死ねばいつ果てることのない地獄が待っている」


「だとしても、今の地獄から抜け出せることが彼らにとって解放となるのでしょう……それが半島全体に飛び火すると内地にも……」


「まるで一向一揆みたいなものだ……そうなると鎮圧しか方法はなかろう……そして彼らはそこに至るまで突き進むことだろう……」


 彼らの懸念は関東大震災以後の朝鮮人の半島送還、在来朝鮮人の没落による北朝鮮鉱山へ出稼ぎという構造的問題だった。これの解決を図り、赤化を食い止めることが彼らの目指していた方向性であった。


 だが、有坂総一郎によって朝鮮総督府領における方針が捻じ曲げられ、徹底した植民地化、朝鮮人の没落化が実施されていたのだ。総一郎は半島に朝鮮人を封じ込め、同時に内地から移住した朝鮮人を在地の朝鮮人よりも階層的に上となるように上手くコントロールしたことで下層朝鮮人の敵意は中層朝鮮人へと向く様になったのである。


 徐々にその枠組みに置き換わったことで下層朝鮮人は満州へと逃げ出すようになり、それによって満州や沿海州においてトラブルが頻発していたが、それこそ総一郎の狙いであり、これによって大日本帝国の植民地統治を円滑に行うと同時に韓国併合以来増え過ぎた彼らを間引くことに成功していたのだ。


 その目論見に眉を顰めていたのが渋沢と立花であった。渋沢は自身の経営哲学、立花は戦場において鍛えたれた嗅覚においてである。


「子爵、そうなると我が帝国陸海軍人だけでなく臣民にも被害が……」


「無論そうなるだろう……だが、それすらも政府の裏で糸を引く連中の計算の内だろう」

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