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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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満州油田は誰のモノ?

皇紀2588年(1928年) 9月17日 帝都東京


 高橋是清内閣は満州において油田が稼働間近という話題に非常に心揺れていた。国内でも新潟などで石油は採れるが、所詮は国内流通分をカバー出来るほどの量はない。


 国内需要の半分はアメリカからのカリフォルニア原油の輸入に依存し、また同様にインドネシアからのライジングサン石油が運ぶ石油製品に頼っている。いずれも良質な石油ではあるが、外国に依存している状況は平時は兎も角、戦時に至っては命取りである。


 油田の確保が出来れば増大する石油製品の消費と需要に対応出来る様になるが、代わりに満州の絶対確保という前提条件が発生するのだ。


 稼働間近となっている遼河油田も満鉄附属地にある権益ではないため、確実な確保を目指すならば満州における親日地方政権もしくは親日国家を樹立し、万全な確保体制を構築しなければならない。これはそのまま事変拡大を意味し、国際社会の非難の集中を招く選択肢であった。


 だが、その選択肢は余りにも魅力的であり、同時に権益を独占しなければ大英帝国はケツ持ちをしてくれると水面下で打診して来ている。


「恐らく満場一致かと考えるが……閣僚各位に意見を伺いたい……まずは外務大臣、森くん」


 総理大臣高橋是清は外務大臣森恪を指名する。


「合衆国はいつも通り門戸開放の原則を繰り返し抗議をしてきますが、大英帝国やフランスは現時点では特に大きな動きを見せておりません。ですが、大英帝国は密約によって擁護を申し出ていますから条件を呑むことで他の列強を抑えることは可能かと……今回の密約は事実上の日英同盟復活の端緒になるのではないかと考えますと外務省としては応じるべきかと」


「外務省は前向きなのだね……では、次に商工大臣としてのワシの考えを述べよう……うちの若手が満州の確保を強く要望しておってな……彼らは元々有坂くんの動きと満鉄の動きで満州において未だ知られていない資源があると確信しておったようだ。そこで、商工大臣としては国益の観点から事変拡大と満州全域の確保をお願いしたい」


 森の発言の後に続き高橋は商工大臣としての立場を示す。だが、総理大臣ではなく、あくまで商工大臣での立場と明言してのものだった。


「総理としては如何お考えか?」


「宇垣陸相、それはまだ答えるには早い。君の考えを聞こう」


 陸軍大臣宇垣一成の問いに高橋はあえて答えない選択をした。


「我が陸軍省では参謀本部からの要望もあり、事変拡大で統一しております。その上で油田確保が可能であればそれに越したことはない。今や我が陸軍も油がなくては動けませんからな」


 宇垣は海軍大臣大角岑生に視線を向けて答える。


「総理、宜しいかな?」


 宇垣の視線を意図的に無視した大角は発言を求め高橋に声を掛ける。


「大角海相は何か思うところがあるのかね?」


「現時点で確保されている遼河油田だが、油質はどうなのか、これが重要であると海軍としては申し上げたい。これからの時代、重油とガソリンが非常に重要になる。どうだろうか、有坂くん」


「大角海相の懸念は半分は解消出来るかと……ただし、満州の油田の油質は重質油であり、重油の生産には向くのですが、ガソリン精製にはあまり向いているとは言えません。また、パイプラインを用いて沿岸部に送り、本土へ還送し、本土で精製するよりも油田近くに製油所を設置し、そこから鉄道輸送を行うのが良いかと考えます」


 大角の指摘に有坂総一郎は答える。


 まだ確保していない大慶油田、確保済みの遼河油田も揃って重質油であり、しかも、内陸深くにあることから輸送に難点があった。大量輸送するにはパイプラインが最も効率が良いが、重質油は粘り気の強い粘土に近いものが多い。そうなるとパイプラインが目詰まりを起こすのは容易に想像が出来るだろう。結果、油田近くでの精製が必要であり、精製したものはタンク貨車によって輸送するという方式である。


――大角海相は転生者だから満州の油質くらいしっているだろうに……。


 総一郎は内心そう思いつつ大角の狙いは何かを考えていた。


「残念ながら陸軍にとってはそれ程価値がある油田ではないようですな……。だが、海軍にとっては重要な油田の様だ。そうですな……一つ提案だが、この油田は海軍に管理監督権をいただけませんか? それで海軍は了としたいと考えます」


「なっ! 海軍は油田そのものを分捕るつもりか!」


 宇垣は気色ばんで大角に迫る。


「陸軍にとっては使い道がない重油でしょう? では、海軍が頂く方が有意義というものではありませんかな?」


 大角の一言によって満州油田の、そして満州事変全体が大きく揺さぶられることとなった。

 高橋是清内閣

 総理大臣 高橋是清 子爵 立憲大政会

 大蔵大臣 濱口雄幸 立憲大政会

 外務大臣 森恪 立憲大政会

 内務大臣 後藤新平 立憲大政会

 陸軍大臣 宇垣一成 陸軍大将

 海軍大臣 大角岑生 海軍中将

 司法大臣 小川平吉 立憲大政会

 文部大臣 水野錬太郎 立憲大政会

 商工大臣 高橋是清 子爵 立憲大政会

 農林大臣 町田忠治 立憲大政会

 逓信大臣 久原房之助 立憲大政会

 鉄道大臣 仙石貢 立憲大政会


 参考人

 南満州鉄道 山本条太郎

 有坂コンツェルン 有坂総一郎

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