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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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密約

皇紀2588年(1928年) 9月7日 大英帝国 ロンドン


 この日、駐英大使松井慶四郎男爵はイギリス外務省からの呼び出しによってオースティン・チェンバレン外務大臣を訪ねていた。


「ようこそおいでくださいました男爵。今日お呼びだてしたのは他でもない」


 チェンバレンは表面上歓待してはいたが、その表情は険しいものであった。


「いえ、御国との友誼は我が帝国にとっても重要なことでありますから伺いましょう」


「満州での状況についてですが……」


 余談を置かず単刀直入に本題に入ったことで松井は背中に汗が滴った。


「ええ、帝国としても非常に憂慮しております……」


「いや、勘違いしないでいただきたい。大英帝国は貴国の行動について黙認している立場ですから非難をしようというものではない」


「では?」


「このまま長引けば貴国にとってあまり良いこととは思えません、程々のところで手を引いては如何か? 長引けばソ連の南下も考えられ、場合によっては満州の赤化という我々列強にとって都合が悪い事態すら起きかねない」


 チェンバレンは痛いところを突いてくる。


 帝国政府もその懸念があるからこそ閣議、大本営連絡会議が紛糾して方針が確定せず、現地関東軍なども動くに動けない状態となっていた。帝国陸軍は盛んにソ連の南下を危惧し、早急な平定を要望していたのだ。


「お気遣い感謝致します……我が帝国もその点について憂慮しており、ハイラルにて実効支配を継続しているソ連赤軍については常に警戒を怠ってはおりません。仮に彼らが打って出る様であれば、我らも呼応して前進を対峙するという方針では一致しております」


「であれば、尚更早期の解決を望みます。我々が北洋政府との仲介を引き受けても良いですぞ?」


「それはありがたいことです。ですが、流石にそれでは大英帝国にとって何ら利益がありませんでしょう? 何をお望みですかな?」


 松井はチェンバレンの申し出の裏にある意図を理解し、提示を求める。


「なんでも満州か北支では石油が出る可能性があるというではありませんか、我々もその恩恵にあずかりたいと考えておるのです……如何ですかな? いくらかの利権を譲渡していただけるならば、仲介の労など安いものではありませんか?」


「残念ながら、その様な話は聞いたことがありませんな……」


 松井は内心驚きを見せていた。


――満州で石油が出るだと? ならば、中途半端に手を引くなどあり得ないではないか。


「仮にですが、石油が湧いて出るとすれば、それは中途半端にしておくよりも確固たる地歩が築かれた方がより良いのではありませんか? 今のままで仮に仲介の労を取って頂き、話が纏まったとしても、我が帝国が確立した勢力圏にあれば良いでしょうが、その外にあった場合、大英帝国にとっては何ら利益とならないのではないですかな?」


「なるほど、それは道理だ」


 チェンバレンはあっさりと引いた。


――一体どこに石油が湧いて出ると言うのか……。


 松井は知らされていない情報だけに裏付けをとりたいと考えた。


「あなた方が掴んでいる情報ではどこに石油が出るというのですか? 私も本国に交渉の材料として提示する必要がありますゆえ、御教え願いたいのですが」


「実は出るという可能性があるという情報を貴国の某企業からうちのチャーチル蔵相(ビヤ樽)が聞いたという話でして、肝心の部分をビヤ樽が教えてくれませんのでね……ただ、あの男は真面目な顔の時は出鱈目なことを言わないのでね、それだけに信憑性は高いだろうと」


「チャーチル卿ですか……なるほど……」


 チェンバレンの表情は先程と変わって険しさがいくらか和らいでいた。


「わかりました……私も本国に大英帝国からの提案を伝えてみますが、現状では空手形故に期待通りの返事は望み薄だと考えていただきたい……ですが、権益の便宜を図ることで我が帝国の行動を見逃して国際社会で擁護していただけると確約をいただけるのであれば期待が持てるかもしれません」


 松井は言質を取るためにあえて明言を求めた。


「貴国の返事次第です」


 チェンバレンは笑みを浮かべた。片眼鏡の奥の瞳が光っていたことで松井は確証を得た気がした。

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