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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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事変拡大工作

皇紀2588年(1928年) 9月2日 帝都東京


「思ったよりも満州は酷い状況になってますねぇ」


 有坂総一郎は国内各紙と手に入る外国新聞を広げて東條英機大佐と唸っていた。


「奉天軍閥を始末することそのものは問題なく順調に進んでいるが……しかし、満州各地で奉天軍閥へ一斉に蜂起が起きるなど思いもしなかったな。独立自治都市を攻めるわけにもいかんし、かと言って放置するわけにもいかん……」


「政府も関東軍も随分手を焼いている様ですしね。ただ、この調子では収穫期に影響するでしょうから間違いなく飢餓が満州を襲いますよ」


「あぁ、既にハルピンやチチハルなどでは既にその兆候が見えている様だ。物資を徴発した軍閥と住民が騒動を起こしているとも聞く……」


 全ては奉天軍閥の徴税という名の苛烈な収奪が原因だ。そこに住民を盾に籠城したことで犠牲が出たという事実が追い打ちを掛けたのだ。


 当然、住民も生きるために自身の味方ではない存在を敵と認識して蜂起や抵抗を示す。軍閥の残党も軍人ではなく夜盗となり果て生きるための強奪を繰り返すという悪循環が生まれたのである。


 関東軍が早期に抑えた佳木斯-牡丹江-間島-吉林-長春-奉天-錦州-山海関の線を結んだより東側の地域は着実に鎮静化、安定化の兆しが見えていたが、それよりも西側の地域は未だ平定していないこともあり無政府状態が続いている。


 チチハルとハルピンは奉天軍閥の正規部隊が駐屯しているが、度重なる物資供出・徴発で市民生活は窮乏状態となっている。そのため不通となっている東清鉄道を歩いて東の牡丹江や南の長春を目指して住民流出が止まらない。


「そろそろ方針を変更して満州の治安回復と無政府状態の改善を名目に全土の制圧という段階に進むべきかと……ソ連の介入も今までなかったことが不思議なくらいですし」


「いや、だが、列強は黙っていないぞ? ソ連は既に実効支配をしているから相手にせんでも良いが、アメリカがやかましいだろうな……」


「陸軍中央や参謀本部は如何考えておるのですか?」


「第一段作戦として満鉄権益地域は確保しているからな戦略目的は既に達したと判断している。資源地帯は殆ど抑えておるからな。戦線の拡大は不要であると考えている者も多い。だが、無政府状態の地域が赤化したら厄介だという意見があってな……これは特に永田と小畑が主張しておって荒木もまた同調している」


「理屈は通っておりますからねぇ……そうなると陸軍側は事変拡大でまとまるとして、問題は政府の腹次第……」


「そうなるな」


 総一郎と東條はこの先の展望の一致を見たが、政府がどう動くか、その点において不安があった。陸軍側は放っておいても戦の継続が可能な限り勝手にやってくれるだろうが、政府が及び腰では結局は史実通りの陸軍に引きずられる形の現状追認となってしまう。


「やはり、政府が意思を示してどう動くか決めないといかんな。前世の満州事変同様になし崩しで拡大させることだけは避けねばならん」


「であれば、政府の懐柔と説得を行う必要があります……満鉄は……南満州鉄道は……我が帝国にとっての東インド会社の様なもの……満州における利益代表ですから彼らに悪役になってもらい満州全土の確保という方針を打ち出してもらいましょう」


「満鉄だけでは心もとない。田中さんにも陸軍側から工作しておこう。政友本党を動かして彼らからも満州平定を主張させれば与党立憲大政会も動かざるを得ないだろう」


「ならば、財界工作はお任せを」


 東條と総一郎は役割分担し、それぞれの影響の及ぶ範囲で事変拡大へと周旋工作を行うのであった。

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