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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2582年(1922年)

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量産!首無しトラック

皇紀2582年(1922年)8月17日 帝都東京


 ウスリースク市街地戦以後、帝国陸軍は東京瓦斯電気工業に大量の自動貨車の発注を行っていた。


 東京瓦斯電気工業は1910年代末期に国産自動貨車の量産に成功、軍用自動車補助法によって制式に認可された最初の軍用保護自動車を発売している。その名をTGE-A型という。


 このTGE-A型はシベリア出兵に際して浦塩派遣軍とともに送り出されていたのだが、ウスリースク市街地戦の後に続くウスリースク臨時要塞防衛戦で後方支援として、機動展開車両として重宝されていたが、如何せん数が少なく、兵站強化を打ち出した浦塩派遣軍によって弾薬などとともに大量に要求されていたのである。


 しかし、史実同様にこの世界でも自動車の運転免許証を有する人材は多くはなく、同時に量産と言っても所詮は実質的な手作りであり、数を揃えることは難しかったのだ。


 そのため帝国陸軍は東北・北海道に駐屯する輜重部隊にこのTGE-A型を集中配備し、自動車運転教習を開始したのであった。自動車運転教習が始まったのが6月中旬であり、各駐屯地周辺の道路、山道、農道などで路上教習が1ヶ月にも渡って延々と毎日行われていた。


 なぜ、東北・北海道に限定されたのか……。


 それは派遣地域である沿海州により近い気候、より近い条件を検討した結果、この地域が適当であるという判断が陸軍中央で行われたのである。


 結果、東北・北海道の各連隊の輜重部隊は根こそぎ動員が命じられ、この8月17日に小樽港、青森港に集結し、彼らは教習車となっていたものと新造されたTGE-A型とともにナホトカへ送られることととなったのである。


 この短期間でまとまった数が揃えられたのには理由がある。


 有坂重工業によるライセンス生産である。東京瓦斯電気工業の製品とは外観は似ているが実際にはほぼ別物となっている。それによって量産により適した簡易規格になっており、曲面の全廃による工数削減が徹底されている。また、運転席は完全な密閉仕様にされ耐寒に配慮したものとなっているのだ。そしてブロック工法を採用したことにより組み立て時間の短縮が可能になったのである。


 これらの組み合わせによって東京瓦斯電気工業の製品の半分以下の時間で同数以上の生産が行われ陸軍に納入された。


 しかし、問題は搭載エンジンであり、これは東京瓦斯電気工業から送られてくるものを載せざるを得なかったのでエンジン部分のみが組み立てられていない所謂首無しが有坂重工業の工場敷地内にゴロゴロしているという事態が発生しているのである。


 小樽や青森から出港した車両はなんとかエンジンを載せることが出来たものであり、陸軍から受注したその多くは今もここ有坂重工業の工場内で首無し状態でエンジンの装着を待っているのだ。


 この日、陸軍から有坂重工業には視察が来ていた。有坂総一郎からの状況説明によって現状を直に視察したいという陸軍兵器廠本廠長横道復生少将の要望によるものだった。


「有坂君……これは……酷いな……」


 横道は工場敷地内の仕掛品である首無しを見るやそう言った。


「ええ、これが我が帝国の国力だと思っていただければよいと思います……この短期間で我々は陸軍の要望にお応えしておりますが、発動機が届かないのでは話になりません……自動車工業の発展がなければ、兵站を維持することは難しいと言わざるを得ません……」


「う……うぅむ……確かにな……」


 横道は唸ると黙り込んだ。


 そして暫く沈黙してから口を開いた。


「ここから先は独り言だ……以前、参謀本部でシベリア増派について討議があったのだが、その際に東條という若い少佐が同じことを言っていた……」


 総一郎は思わず頷きそうになったが、独り言には反応を示すわけにもいかないと思い黙ったままでいた。


「さて、現状は把握した。次の出荷……納品は何時になる?シベリア情勢はやや落ち着いているとは言えど、早急に防衛線の構築をせねば再び押し戻されかねない……欧州では独ソが和解したと聞くしな」


 総一郎は横道の話に頷き手帳を開きエンジンの納品日を確認した。


「……東京瓦斯電気工業から発動機が20日に30台分届きますゆえ……22日には出荷、23日には品川から発送出来るかと……」


「……やはり、君の会社は尋常ではない生産能力を有しておるようだな……兵器廠を預かる者として軍需関係企業に行政指導する方向で考えておこう……」


「お願いします……我が社がいくら量産体制を整えても、他社が手作りでは話になりません」


 総一郎は横道に念押しした。たかだか数十台の車両を造るだけで音を上げるような生産能力で総力戦など出来ない。まして、国内生産力を高めるためには月産1000台でも足りないだろう。それを思うと眩暈がしてきそうになる総一郎であった。

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