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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2582年(1922年)

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造船の神様

皇紀2582年(1922年)8月7日 帝都東京


 帝国ホテル事件から1週間が過ぎようとしているこの日、有坂総一郎は自身の社長室にてある一人の海軍軍人の訪問を受けていた。


 彼の名は平賀譲海軍少将……造船の神様と称される人物である。


「鈴木商店の金子氏から新進気鋭にして今の帝国に足りぬものが何かをよくわかっている人物だと紹介を受けたのだが……ふむ……」


「その様に金子氏は申されましたか……して、此度はどういった御用向きでございましょうか?」


 この日の平賀の訪問は全くの予定外の出来事であり、総一郎は前もって彼に何か工作しようという準備を行っていなかった。……のだが。


「うむ……実はだ……このようなことを言うと頭がおかしくなったとでも言われるのではないかと思うのだが……」


 彼は言い淀み暫く窓の外を眺め言葉を選びつつ話し始めた。


「君は、この後の時代がどうなるか予想が出来るか?」


 総一郎は内心驚いたが眉を動かす程度で表情の変化を抑えた……つもりだったが……。


「まぁ、驚くであろうな。君の様子を見るにお仲間であろうからな」


「……少将は所謂転生者であると?」


「そうだな……有体に言えばだが……私は昭和18年には病死するはずだが、それは知っておるか?」


「史実では……そうであったかと……」


「私の死去後、大和は武蔵は……どうなった?」


「航空攻撃によって両方とも沈んでおります……武蔵は数十発の被弾の後、大和は片舷に魚雷が集中したと聞いております……予備浮力の不足と設計時の欠陥で装甲の継ぎ目に問題があったという話です」


 総一郎の話を聞いた平賀は腕を組んで考え込んだ。


「少将?」


 平賀はゆっくりと一呼吸して話し始める。彼の目の色は変わっていた。意志が固まったと言うべきものだろうか……。


「有坂君、君の知っている限りの私の造船の問題点を述べたまえ……恐らく、そこには改善すべき点が多くあるであろうし、海軍そのものの欠陥もあると思う……造船だけではなくな」


「しかし、少将の影響力が及ぶ範囲は艦政本部や海軍工廠などでは?」


「そうだね。だが、沈みにくい軍艦の建造をすれば……それだけ兵の命が救える。私の設計した船は藤本君の設計したそれと違い、旧態然とした部分が多く、無駄なところもあった……無論、藤本君のそれは新技術などを積極的に取り入れたが……軍令部や用兵側の無茶な要求を受け入れ過ぎた……違うか?」


「確かに、第四艦隊事件や友鶴事件など藤本氏の設計では重武装、高重心で復元性が悪い……また、幼稚な水準の新技術の多用という問題もあります……逆に少将の場合は旧来の技術、例えばリベット止めにこだわり結果、後に普及するブロック工法との相性の悪さや、破損個所からの浸水の増大、重量過大を招いています……」


「そうだろうな……私が柔軟な発想でなく、既存のもので対応したせいである……第四艦隊事件などの後始末ではそれも良かったが……戦時になれば良い面だけとは言えないだろう」


「左様かと……少将には溶接工法、ブロック工法の確立などが当面の課題ではないかと思います……」


「藤本君の推進した新技術だな……」


「はい。溶接技術の成熟は今後必須となりましょう、また、ブロック工法を取り入れた設計であれば、改装時にも手間が減りますし、パーツごと交換すればよいので修理にも大きく好影響を及ぼすかと……」


「確かにそうだな……」


 後に発生する平賀・藤本バトルを事前に封じようという話に平賀も無条件で乗ってきた。


 両者が融合すればバランスの取れた艦が造られていただろうが、史実は重武装に偏った武骨と言えば聞こえが良いが撃たれ弱い艦、量産性のない一品ものを造る元凶となったそれを防ぐべきなのだ。


「あとは……ワシントン会議によって減じた戦艦を補完する補助艦艇……史実で言えば、重巡洋艦ですが、史実とは違い、コンパクトにまとめるのではなく、最初から高雄型あたりの余裕のある艦を量産する方向で設計建造するべきかと……」


「史実では古鷹型を基準とされてしまったからな……」


「それと……少将は史実では扶桑型に41cm砲を搭載する案を提出していましたが、扶桑型の退役が決まった今は伊勢型で検討をされておるのですか?」


 平賀は答えに窮した。


「検討はしているが……今の段階ではとても使いにくい船になると思ってな……」


「速力ですか?」


「あぁ、41cm砲を積むことそれ自体は多少の重量増で可能だ。だが、肝心の機関の性能が追いつかないのでは欧米の様な低速戦艦になる……それではあの戦同様に使い道がなかろう?」


「そうなると、高圧力、高馬力機関の研究開発が必須ということに……?」


「建造中止になった紀伊型などの機関を使えばよいのだが……艦中央部の砲塔区画などが……まぁ、この辺りは上手く設計すればよいのだがな……」


「では、最低でも28ノットを目指して……」


「空母護衛や敵地殴り込みをするならば、それくらいは必要になるな」


 その後、平賀と総一郎は深夜まで話し合いを続けた。


 海軍工廠の設備関係、納入する鉄鋼材、工作機械、輸送機器など、彼らの話は多岐に渡った。有坂重工業単体ではどうにもならない部分も多くあり、それらを鈴木商店を経由させ大英帝国から輸入するという方向性で密約が成立した。


 特にブロック工法と溶接工法の技術的進展は喫緊の課題であるとして、その実用化をまずは鉄道車両において取り組むことが決まった。

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