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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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張学良、窮地に陥る

皇紀2588年(1928年) 8月8日 満州


 ハイラル縦深要塞における小競り合い(注:ロシア側視点)によって地方軍閥、傘下の軍閥の戦力をすり潰すことで相対的に自勢力の影響力を拡大するとともに反抗するモノを始末するという目的を達した張学良はチチハルの前線本営から奉天に向けて移動していた。


 張作霖が乗車しコミンテルンによって吹き飛ばされた専用列車を再編成して仕立てた特別列車による移動であったが、彼は特別列車の前後に無蓋貨車で構成される警戒列車を運行し襲撃に備えていた。


 もっとも、張学良が襲撃を受けることはなかったが、途中駅で石炭や水の補給をしていた際に一通の電報が彼の元に届けられた。


「日本軍、国境を越え進軍中。奉天は既に包囲され、脱出は困難。奉天城に籠城し、援軍の到着を待つ」


 張学良はこの電報に触れた際に驚きを隠せず呆然自失となった。彼は副官に揺さぶられ正気を取り戻すとチチハルやハルピンに駐屯する奉天軍閥、北洋政府軍に奉天へと急行するように指示を出した。


 だが、張学良の特別列車が新立屯に至った時点で長春に関東軍の装甲列車が乗り付け制圧されたという報告が入ったのである。この報告が入った直後、長春との連絡は途絶した。


 このため、8日深夜にはハルピンに展開する3個師団相当の戦力、チチハルから移動し白城子に展開する2個師団相当の戦力、新立屯の専用列車と警戒列車の1個連隊相当の戦力に奉天軍閥の戦力は分散し、連携することも出来ず分断されてしまったのだ。


 北洋政府軍の戦力はチチハルに1個連隊相当が残存する状態で、2個連隊相当が山海関に存在しているが、この戦力は既に連絡が付かない状態になっている。北京や天津には5個師団相当の戦力が存在するが、これらを動員することは華北の放棄を意味することと同義であり、同時に山海関の兵力と同様連絡が途絶しているため来援の可能性は低い。


 張学良直卒の奉天軍閥にしても北京北洋政府にしても、その主力は騎兵師団や歩兵師団であり、広大な満州という大地においては移動手段は鉄道輸送に頼っている。まして、電信網整備など満足ではなく、主要都市を結ぶものだけであり、通信はタイムラグだらけである。


 無論、各都市間の連絡途絶は関東軍やA機関、満鉄の妨害工作によるものであり、張学良もそれは承知しているが日本軍がこのタイミングで介入するとは思いもしなかった。


――爆殺事件から2ヶ月近くたってから行動を起こすとは思わなかった……。関東軍も表立って行動を起こさなかっただけに奉天など遼寧の戦力を抽出したのは失敗だったか……。


 帝国政府の優柔不断な意思決定の遅さによる帝国陸軍の不介入が結果として張学良の判断ミスを誘い、南満州の戦力空白地帯を生み、そこに電撃侵攻を開始した帝国陸軍によって制圧を許したのである。


「奉天からの連絡途絶! 最後の報告は敵の猛烈な砲撃を受けつつあり……直後、通信が完全に途絶しました」


 張学良の元に奉天からの断末魔の通信が届く。


――一体、何が起きているのだ……。


「閣下、このままでは敵に包囲されるのを待つばかりです……お早く北京へお逃げください。このままでは敵に各個撃破され、長城を越えられます……山海関にて防備を強化し、反攻の機会を待つのが上策」


 副官は張学良の置かれた現状を的確に進言すると彼の言葉を待つことなく、部下に命じた。


「すぐに列車を出せ、兎に角山海関を目指せ。ハルピンに連絡し、出来る限り長くハルピンを死守せよ、チチハルの兵はハルピンに合流させよ、白城子の兵は奉天奪還のために進軍せよ!」


 彼の判断はハルピンでの持久戦によって時間稼ぎをしつつ満州侵攻軍を引き付けることで張学良の北京への撤退を助けることであった。そして、その為には白城子の兵を奉天に突撃させ誘引させることが適当だと考えたのだ。


 約7万の兵の命と引き換えに張学良の脱出が出来れば上出来だと彼は考えたのだ。


「さっ、閣下、お早く! 私はこれから攪乱工作を行い時を稼ぎますゆえ!」


「貴様の忠誠、無駄にはせぬ」


 張学良は他の側近とともに新立屯を後に、一路山海関を目指す。

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