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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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東條、逃げる

皇紀2588年(1928年) 8月4日 帝都東京


 有坂総一郎のゴリ押し的な列車砲運用構想に内心引きながらも東條英機大佐は計画書類にもう一度目を通す。そこに先程は気付かなかった一枚のメモを見つける。


「……なんなんだこれは? 製材工場が発行した受注票?」


 その瞬間、総一郎の表情が固まった。無論それを見逃す東條と賢妻有坂結奈ではなかった。


「旦那様? これは一体なんですの?」


「それは……」


「この寸法は20糎列車砲の砲身と同じではないか? 貴様、偽装列車砲の発注までしたのか?」


 額に手を当てて天を仰ぐ東條であった。流石の東條もダミーを用意して列車砲を実態以上に量産していると見せかけるまでは考えてはいなかった。


 東條の頭の中では既に量産された10編成と追加の2編成を合わせて2個戦略列車砲群を構成して、それを北満州で顕示することで北満鉄壁要塞を演出するというもので根回しをする段取りが組まれていたのだ。


 だが、総一郎は列車砲を満州平定後は要塞砲として運用するつもりなど毛頭なかったのだ。それゆえにダミーの偽装列車砲まででっち上げて、大陸に展開する帝国陸軍居るところには列車砲が控えているという虚構を造り上げることで折角量産化した列車砲をフル活用するつもりだったのである。


「折角造った列車砲を要塞砲として運用するのは勿体ないと思いまして……それなら、日ソ開戦に至るまでは飾りでよいのですからいっそ要塞から列車砲を引き上げて他戦線へ転進させるべきかと……そのためには偽装列車砲をでっち上げるのが良いと考えた次第……」


「一つ良いかしら……」


 結奈の瞳はフラットであり、その言葉はとてつもなく冷たく、吹雪を感じさせる。


「ナンダイ……」


 思わず片言で応じる総一郎だった。


「その費用はどこから捻出したのかしら? 経費で落とせるような書類なんて見た記憶がないのだけれど」


「……木材に関しては農林省に、台枠などの鉄道部品は鉄道省に、それぞれ立て替えてもらいました……」


「へぇ……では、我が社からは一円も出費していないのよね?」


「いえ、各省向けの納入価格について少しお話をして……」


 その時、東條はそっと応接間を後にしていた。


――あれは、アイツが悪い。それに、陸軍納入価格の相談(あの話)はああいう裏があったのか……私もアレには一枚噛んでいるから巻き込まれるのは目に見えている。三十六計逃げるに如かず……だ。


 危機察知も軍人にとっては大事な資質だ。一瞬の油断が命取りになる。


「東條さんはどこに! あの方もグルね。本当に男たちってなんでこうも好き勝手するのかしら!」


 東條は逃げる途中に使用人と出会うが黙って見逃してくれと言い、東條の表情を見るや使用人も頷き、その日は終日応接間に誰も近づかなかった。


「東條さん、一人だけ逃げるなんて裏切り者が……なんで私だけこんな目に……」


 総一郎は延々と結奈の説教を受け続けるのであった。

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