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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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列車砲という罠

皇紀2588年(1928年) 8月4日 帝都東京


「仮に貴様の思惑通りに列強がバスに乗り遅れんとして超列車砲開発に乗り出しとして、欧州に要らぬ波風を立てることにならぬか? それこそ、旧世界の破壊を狙うルーズベルトの野望に加担することになるのではないのか?」


 東條英機大佐は有坂総一郎の目論見の成算があると見込んでいたが、それでもなお、かなり危険な賭けになるのではないかという疑念を抱かずにはいられなかった。


 理屈の上では総一郎の主張は可能性が十分にある。いや、実際に列強は列車砲を決戦兵器として運用している。それどころか、戦局を動かす兵器であると認識し、専用の砲身を製造している。


 特にドイツに至っては大砲王グスタフ・クルップの率いるクルップ社を中心に秘密裏に研究を継続している。資金供給が本格化すれば社運を賭けて成層圏の彼方に向かって突っ走ることは明白だった。史実でも、21cm列車砲から始まり28cm、80cmとその口径は拡大されるに至った。


 航空機の発展によってその活動領域が縮小したことは列車砲の命脈を断つこととなった。だが、それでも、陸軍国であるドイツ、フランス、ソ連は鹵獲や転用による列車砲を運用し続け、戦場に投入している。


 つまり、根っからの陸軍国は潜在的に列車砲を欲し、その能力の強化拡充を行っていたのだ。


「甘粕さんのA機関を通じ、コミンテルンに意図的に情報を流すことでソ連上層部は必ず反応を示すはず。シベリア鉄道はウラル以西では軌道が弱いために運用制限が掛かりますから、必然的に列車砲の脅威が増した極東への列車砲移送を狙ってシベリア鉄道の大工事が始まると睨んでいます」


 総一郎はソ連が取るであろうアクションを東條に順に説明する。


「ウラル以西での軌道強化となれば、中央アジアのカザフ、タジクなどから徴発による動員が行われるはずで、その兆候がつかめればソ連の動向はおおよそ掴めるも同然。ソ連は13cm、18cmの列車砲を前世では有しておりましたが、それらの多くはペテルブルグ近辺に配置され、実質的には移動砲台という体裁のモノですから現状ではそれほどの脅威ではありませんが、後に36cm級のものを造っています。これは旧式戦艦の廃物利用ですがね」


「ソ・フィン戦争や継続戦争の情報で確かにそれは知っているが……ハイラルで列車砲による殲滅攻撃を受ければその影響を受けるだろうな……それもコミンテルンから設計図ごと情報が上がってきたならば、飛びつく可能性は高い……」


「ええ、連中は不時着したB-29をバラシて設計図を起こして複製を造り上げています。もっとも、発動機は流石に複製出来なかったようですがね。それと同じで必ずや列車砲の複製を企むでしょう。そうなれば……」


 総一郎の目は光る。それこそ真の狙いであった。


 ソ連が列車砲の複製と量産化を進めることで明らかに軍需産業は戦車の製造や設計から重点が移る。それによる戦車開発の遅れは明確にソ連に深刻な戦力不足をもたらすことになる。


「そこにドイツ側に情報を流すことでクルップ社を中心に超列車砲構想が生まれ、英国情報部がそれを察知してフランスもマジノ要塞無力化を恐れて開発競争に至る……それが旦那様の狙いなのでしょうね……」


 有坂結奈は総一郎の裏の狙いにも気付いたようであった。


「旦那様はフランスの国力を列車砲の製造という無駄遣いで前世以上に低下させることでフランスの早期降伏を促すおつもりなのでしょう? でもね、彼らも馬鹿じゃないわよ? ヴィシー政府みたいなのが占領地行政をするでしょうけれど、きっとド・ゴール将軍は前世同様に亡命軍を組織して徹底抗戦するわよ」


「そこはそれだよ。でも、フランスはさっさと戦争から脱落させないといけない。なにせ、ノルマンディー級戦艦を4隻も保有しているんだ。前世みたいにまともに動く戦艦が存在しないという状況じゃないんだよ。それがアメリカに仮に接収などされたら……」


 総一郎は結奈の懸念に懸念で返した。


 この世界での独仏関係は史実以上に悪化している。それゆえに、英独開戦しなかったとしても、独仏開戦は必至である。これは有坂夫妻の共通の認識だ。


 この世界でも自由フランスはアメリカに亡命することで徹底抗戦を主張するであろうことは間違いなく、それに対して有坂夫妻は対仏関係に見解を異にしているのである。


 総一郎はノルマンディー級戦艦4隻を中心とする史実よりも強力なフランス海軍の確保または中立化を重要視し、結奈は自由フランスの封じ込めを重要視している。


「貴様らの見解はわかったが、フランスの分裂は今の問題ではないから今は捨て置け。陸軍国である独仏ソは首尾よく挑発に乗って列車砲増産に掛かるとしてだ、こちらもそれに乗っかる必要はないだろう。列車砲は兎に角カネが掛かる。陸軍の予算では耐えかねる。支那は兎も角、南方などでは全く役に立たんぞ?」


「ですが、ソ連対策では大きな戦力になりますよ。ですので、満蒙国境には列車砲を前進待機させ十分な数で敵を引きつけるべきですよ……列車砲は単体ではなく、複数……出来れば5編成以上1単位で運用すべきです。それであれば必要人員の効率化を図れます。軍艦と同じで砲塔という位置づけで扱うのです」


 総一郎は列車砲最大の問題に対しての一つの答えに至っていた。


 列車砲は連隊単位、旅団単位の人員を必要とする。だが、それは1つの列車砲を単体で運用するからこそ発生している問題だと考えたのである。


 整備、運用、管制が1つの列車砲に対して配備されるから膨大な人員が必要なのであって、複数の列車砲を集中運用する場合、整備や管制に関しては共通化することが可能であり、そして、複数の列車砲を集中運用することで波状攻撃させることで敵へ与える被害を拡大出来ると考えていたのだ。


 無論、機械化、自動化することで可能な限り運用人員を減らすことも行っている。


「だが、そうは言っても、師団単位の人員になりかねんぞ……」


「6編成で旅団規模まで人員を減らせるならば、検討出来る内容になりませんかね?」


「いくつかの騎兵連隊を廃止して転用すれば兵員は賄えるとしてもだ……」


「なに、前世の日本海側の沿岸要塞を全部廃止して、満ソ国境の要塞も廃止すればお釣りが来ますよ。なにせ、沿海州は極東ロシアであり、実質的に我が帝国の属国ですから要塞を造る必要がありませんから、満州里付近に縦深陣地を構築するだけで当面は事足りますよ」

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