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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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激怒

皇紀2588年(1928年) 8月4日 帝都東京


「いけると思ってやった。反省していない」


 開き直った有坂総一郎の一言は東條英機を激怒させるには十分だった。


「貴様、帝国臣民の血税を何だと思っておるのだ! これは軍備でも何でもない!」


 東條の額には血管が浮かび上がり、眉間は深く刻まれていた。それほどまでも彼を怒らせた人間はそうはいない。


 彼が激怒したことを後にこの顛末を聞いた者の多くは「それは有坂が悪い」と口を揃えたほどである。


「この陸上戦艦は一体何を考えれば浮かんでくるのだ! こんなものまともに造る国家などどこにも存在しないぞ! それどころか、これはまともに動くとは到底思えぬ!」


 そこにあったのは80cm列車砲、52cm列車砲の詳細な見積書と設計図であった。その設計図には理論上製造可能であり、その威力と射程距離が記されていた。


 東條はその数値を見るとさらに怒りのボルテージを上げる。


「誰がこんな入れ知恵をしたのだ? こんなものあのドイツですら……いや、そうか、アレか……」


「ええ、東條さんも御存知のはず。セバストポリ要塞攻略にドイツ軍が用いたものです。べトン弾でセバストポリ要塞の強固なコンクリートトーチカを叩き割って粉砕したアレですよ」


「貴様はこれを使って何を企んでおるのだ? 一撃で粉砕出来るだろうが、だが、これを用いるには今までの列車砲など物の数ではないという程の物量が必要になる。それでいながら、重要局面に十分な準備をしてからでないと使えない兵器など我が帝国では無用の長物ではないか!」


 実際に東條が言う通り無用の長物と言える部分は確かにある。旅団単位の人員を必要とし、尚且つ準備期間に週間単位、専用の貨物列車が必要であり、極めつけに専用軌道の敷設が必要である。


 このような国情を無視したものを真面目に開発し、製造一歩手前まで進めていた総一郎に東條が激怒するのは当然のことだと言える。


「東條さん、これは戦術兵器として用いるからこそ、使い方を間違えるのですよ。これは戦略兵器です。いわば、陸の大和型戦艦です。使い方を間違わなければ、有効に機能するのです」


 総一郎は尚も開き直ってそう言う。


「何に使えと言うのだ?」


「開発計画をぶち上げて、もしくはコミンテルンを経由して情報を流し、世界中に謎の巨大列車砲、陸上戦艦という脅威を印象付けるのです。そう、欧州大戦時のパリ砲やドレッドノート級戦艦の様に……。そうなれば列強はこれに対抗し得る列車砲の開発に着手して無駄に国力を浪費してくれるのですよ」


「そうは簡単に行くわけがなかろう」


 東條は幾分か怒りが収まったようだ。総一郎が本気で造る気だと思っていたからこその激怒であったが、謀略的意図であればその怒りもいくらかは収まる。だが、それでも、彼は総一郎の言葉を鵜呑みにはしなかった。


「そう仰いますが、現に長門型戦艦、八八艦隊というそれにアメリカは過剰反応してダニエルズ・プランを実行しましたが……これも同じですよ。しかも、欧州はパリ砲の衝撃を忘れていない。そうなれば、英仏はドイツを脅威と疑い列車砲開発に国力を傾ける。当然、そうなればドイツも対抗上動く。連鎖してソ連も開発に踏み切る……」


「そうかもしれんが……肝心のアメリカはその手には乗らんだろう? 欧州列強よりもアメリカが国力の浪費をしてくれねば最終的には我が帝国にとっては利益にならんぞ」


 東條も欧州大戦の列車砲や戦車の登場という衝撃で欧州列強がどう動いたか考え一応の納得をするが、地球の裏側の欧州ではなく、太平洋という庭を挟んだ隣国が気掛かりであった。


「そこは……そうですね……アメリカは戦艦だからこそ挑発に乗ったと考えるべきですね……いけませんな……最近は海洋国家という発想を忘れてしまっていました……」


 総一郎は笑って誤魔化すが、東條の額には再び血管が浮き上がっていた。

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