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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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ハイ、論破!

皇紀2588年(1928年) 8月4日 帝都東京


 英雄将軍こと荒木貞夫中将は土産の大吟醸を手に上機嫌で帰宅したが、有坂総一郎はまさか敵対勢力の親玉が乗り込んでくるとは思わなかっただけに頭を抱えたり、部屋の中を行ったり来たりと落ち着きがなかった。


 帰宅した妻の有坂結奈にソワソワと落ち着きのない様子を一喝されてようやく我に返った総一郎だったが、すぐに東京第一連隊を指揮する東條英機大佐の元へ電話を掛けると丁度彼も所用で出掛けていたこともあり、夜まで連絡が付かなかった。


「携帯があればこういう時にすぐに連絡できるというのに……あぁ、ままならん」


 総一郎は受話器を置くとそうつぶやく。


「現代より生き生きとしている貴方らしくないですけれど、その意見には同意するところがあるわね……約束一つ取り付けるのに一苦労というのはホント無駄よね」


 現代の便利さを思い出しながら夫婦揃って愚痴るが、この時代にそんな都合の良いものはない。いや、無いこともないが、そんなものがあるのは軍隊くらいなものだろう。野戦電話とか無線電話くらいなものだ。


 そんな大層なものを持ち歩くのは御免こうむりたいというのが有坂夫妻の認識だった。理由は単純、便利かもしれないがひたすら重い。そんなものを持ち歩くなどただの拷問だ。


 現代人の自分たちの都合ばかりの愚痴はさておき、夜半に東條から折り返しの連絡が来て翌4日の夕方に会う約束を取り付けたのであった。


そして4日夕刻。


「待たせた。荒木(アレ)はなんと言ってきたのだ?」


 東條は応接間に通されるなり開口一番本題を切り出す。


「ええ、結論から言いますと、前世の九五式野砲を早急に造れと依頼がありました。恐らく、荒木閣下は満州出兵に際して長期化を想定しておるようです……そして、それゆえに不足する支援火力、つまり大砲の更新を望んでいる様ですね……」


「元々、大砲についてはもう少し後で介入する予定だったが、そうか、荒木の奴、こちらが色々と準備しておるのを知っていてカードを切らせようという魂胆か……。まぁ、確かに荒木は陸相時代に九〇式野砲の増産を要望していたからな。先見の明がないわけではないからな」


 東條は荒木の意図を理解したようであった。


 荒木は史実においても砲火力の充実を図ろうとしていたが、高橋是清によってそれを阻止されていた。故に陸軍大臣から失脚したわけだが、高橋も財政の専門家として増大する軍事予算を看過出来なかったのは仕方がない。


 高橋はケインズ主義を忠実に実践していただけに軍事予算によって経済復興を図ろうという政策を進めていたが、それとて、国家予算に占める割合が増え過ぎればそれを抑制せざるを得ない。なにも軍事予算だけが国家予算の全てはない。限りある国家予算を規律あるものにするには頷くだけではならない。


 仮に荒木の要求が通っていた場合、史実の帝国陸軍の砲火力は遥かに整っていただろう。だが、それもまた「たられば」の話である。


「あの時、犬養、斎藤内閣で荒木は陸軍の砲火力増強に頑張っていたのは事実だからな。だからこそ、今の歪な火力構成を何とかしたいと思っておるのだろう。参謀本部第一部長という任であるからな。作戦を預かる以上、必要な戦力の計算くらいはするだろうよ」


「しかし、我々も戦車開発に介入したり、装甲列車や列車砲に……」


「いや、戦車開発は兎も角、装甲列車や列車砲は貴様の趣味だろ……男の浪漫が……とか抜かして木更津や富津で狂喜乱舞していたのは誰だったかな?」


 東條の指摘に総一郎は押し黙る。


「……しかし、満州や支那では有効だと東條さんも仰ったじゃないですか……」


「必要だとは言ったが、前世を上回る量を揃えたのは本当に必要だったのか甚だ疑問だ……あぁ、だが、列車砲の省人化は間違ってはいないのだろうが……本当にあんなに造る必要があったのか? それなら、八八式戦車を量産出来たのではないのか?」

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