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赤狩り

皇紀2582年(1922年)7月15日 帝都東京 渋谷


 1922年7月15日……史実においてこの日、日本共産党が帝都東京は渋谷において結党された。


 前年の4月に日本共産党準備会を共産主義者が秘密裏に発足させ、そのメンバーである堺利彦・山川均らが主導し、この世界においても渋谷に結成されたのであるが……。


「まさか、財界でも新進気鋭と呼び声高い有坂さんが参加されるとは思いもよりませんでした」


「いえ、共産主義の理念は労働者の解放という素晴らしいもの、経営者たるもの、今後は斯様な崇高な精神を持ち合わさねばと思いまして、こうして参加させていただいた次第……」


「いや、まっこと素晴らしい……三菱や三井などの財閥の糞どもにあなたの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものです」


 なんとこの結党大会に居る筈がない人物が紛れていたのである。その名を有坂総一郎という。


 総一郎の言葉に共産主義者は揃って褒め讃え、彼らは気勢を上げていた。


「しかし、私もまだまだ共産主義という考えを理解しきったわけではありません……是非、他の方々とも語り合いたい……私の講演会と親睦会という名目で帝国ホテルを借り切りますので、その場に多くの同志をお招きし、その場でより深淵に近づきたいと思っております」


「おぉ、それは素晴らしい考えだ。その様な機会があれば資本主義で腐りきった日本に革命をもたらす好機となりましょう」


 総一郎の提案に賛意を示すものは多かった。


 結局、総一郎の招きに応じ、各地に潜伏もしくは思想を隠しているシンパたちへ呼びかけをするという形で共産党結党大会は終わった。


 この時、共産主義者、社会主義者たちには総一郎の存在が革命への一筋の光明に思えていた……のだが……。




皇紀2582年(1922年)7月31日 帝都東京 帝国ホテル


 総一郎は彼らに約束した通りに講演会、親睦会を帝国ホテルにおいて開催した。


 多くの共産主義者や社会主義者が居並び、旧交を温めると同時に革命への決意や熱意を語り合うなど彼らは時間が経つに連れてその熱量は大きくなっていった……。


 その時である。


「突入!」


 一斉に警視庁の一団が帝国ホテルの大ホールへ突入してきた。


「何事だ!」


「警察だ!誰かが売ったんだ!」


「構わん、応戦だ!」


 熱に浮かされていた共産主義者、社会主義者たちは逃げるという選択肢がなく、本能で警官隊と交戦、その多くが捕縛され、射殺された。射殺されたその中には史実では戦後の共産党を率いた野坂参三やゾルゲ事件の尾崎秀美などが含まれていた。


 しかし、数人の人物が逃げ延びたが、大勢は決したのであった。


 そして……翌日の全国紙において「社会主義者壊滅、反乱分子悉く掃滅さる」と大きく報じられることとなる。後世に帝国ホテル事件と称される赤狩りの始まりである。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 尾崎秀実は1925年時点では熱心な共産主義者ではなく、また自身が共産主義者を自覚した後も日本共産党員や労働組合員との関わりを持つことを控え活動していたのだが、こうもあっさり尾崎が消える…
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