張学良の野望
皇紀2588年 7月25日 満州
1ヶ月にも及ぶハイラル縦深要塞における攻防戦はソ連赤軍の勝利で終結した。この間に犠牲となったソ連軍の死傷者は2500名余、対する北洋政府の死傷者は7万名余。
張学良の意図的な情報操作と隠蔽、伝達不備によってライバル軍閥の一掃を企てはほぼ成功したと言える。この時点で張学良に対抗出来る軍閥の首魁は皆戦死していたからだ。
「奉天軍は何時になったら総攻撃をかけるのか!」
「我らが橋頭堡を築いても総攻撃なくば無駄死にぞ!」
前線で縦深陣地に取りつき必死に確保した橋頭堡から軍閥の幹部たちは一向に始まらない奉天軍の総攻撃に焦燥感にかられ、軍使が幾たびも張学良の本営に送り多込んだ。
だが、本営に辿り着いた軍使たちは容赦なくその場で処分され、彼らは見殺しにされたのである。
「天下を統べる者は二人も要らぬ。この機会に一掃する。総崩れになった兵たちは吸収し、我が軍の増強に充てるのだ」
張学良の冷酷なまでの徹底したライバル排除に側近である奉天軍閥幹部たちも恐れおののく。自分たちもまた同様に排除されかねないとの危惧が彼らの心を支配する。
だが、それでも彼らは忠実に張学良に従った。なぜなら、今反抗しても他軍閥の兵を吸収した張学良に真っ先に潰されるだけだと理解しているからである。
「王精園将軍、討ち死に! 趙海山将軍、撤退……」
次々に入る他軍閥の有力者たちの戦死の報告に張学良はますます笑みを浮かべる。
「趙海山にコサックどもを向かわせるのだ……ソ連の仕業として奴を葬れ」




