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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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その名は鎌鼬

皇紀2588年(1928年) 7月1日 青森県 弘前


 ハイラル縦深要塞に籠るソ連赤軍と、チチハルに陣取る張学良率いる奉天軍閥は遂に開戦に至った。


 6月29日深夜に騎兵師団による夜襲を敢行すると同時に要塞前面に総突撃を行う奉天軍閥だったが、無残にも一方的に撃ち破られその戦力を開戦初日にしてすり潰すという大失敗によって撤退を余儀なくされた。


 だが、張にとってその損害すらも織り込み済みものだった。


「中小軍閥が兵を失うのは大変結構なことではないか。これで俺の邪魔になるものは減ったのだからな。親父殿もいない今、華北と満州に覇を唱えるのはこの俺なのだ」


 その野心に燃えた瞳に映るのは敗残兵が引き上げてくる風景だった。傷つき倒れそうな兵たちはいずれもが奉天軍閥の正規軍ではなく、張父子に従属する地方軍閥の兵たちであり、同時にいつ裏切るかわからない存在だった。


「これではっきりした。連中はここから動くことは出来ない。進むことが出来ないからここに籠っている。だったらこの俺がすべきことは表向きソ連と戦って領土奪還の戦争を演じつつライバルを葬ることだ……」


 張は北洋政府を代表する立場であること、北天を制する者として君臨する夢を見る。彼の眼に映るのは目の前の戦場ではなく、歴史上の中華王朝の栄耀栄華だ。かつて彼の父、張作霖がなし得ず、袁世凱が果たし得なかった野望の果てだ……。


「赤軍にはまだこの茶番に付き合ってもらう必要がある。全ての敵性分子を排除し終えたならば、その時にこそ決着をつけようぞ……その為ならばこの満州の地一時的にくれてやることすら厭わぬ」





 張学良が野望を滾らせ北洋政府版図に動員をかけたその日、青森県弘前にある第8師団は出征準備がすべて完了した。


 陰謀を巡らせるものは張学良唯一人ではない。日本側にもまた存在する。


「よし、これより浦塩に移駐する。満蒙の状況如何では諸君らにも出兵が命じられる。そうなれば我が師団は東清鉄道をひたすら西進しハルピンを目指す! 途中、地方軍閥の抵抗があるやもしれぬが、徹底して排除せよ! 満鉄鉄道附属地に居留する邦人の保護こそ我らが任務である!」


 第8師団長真崎甚三郎中将は師団本部において並み居る師団幹部に訓示を行う。


 彼の訓示はまさに戦闘を行う前提でのものであり、ただの移駐命令でしかないものを出兵命令と読み替えている様なものだった。


 だが、それに反発する声は上がらない。


「師団長殿! いつ我らは北満に雪崩れ込むのでありますか!」


「師団長殿、ハバロフスクを落とした時の様な電撃戦を再び行うのでありますか!」


「いや、今回は装甲列車が我らにはある。あの時以上の強襲電撃が可能ではありますまいか!」


 師団幹部は揃って先陣を切るかのような口ぶりだ。


 もっとも、これは真崎と参謀本部第一部長荒木貞夫中将の差し金で真崎麾下の参謀・指揮官を皇道派、特に荒木・真崎を信奉する者たちで固めた結果だ。


 政治的思想でまとめ上げ、東北出身の中堅将校を味方につけた彼らは師団を丸ごと私兵集団と化していたのだ。


「諸君、あの時の電撃戦とは比べ物にならんぞ! 今や我が師団は銀輪ではなく、自動二輪とトラックを装備しておる。また、一部ではあるが戦車の支給もあった。少ない戦車ではあるが、師団本部直属として遊撃部隊として運用すれば大きく戦局に寄与することだろう……そして、新兵器がもう一つある」


 真崎は士気が上がるようにこれでもかと持ち上げた。


「短中距離無線機でありますな!」


 参謀の一人が応じる。


「そうだ! 先頃、城ケ島要塞にある秘密研究所で完成した無線機を永田鉄山大佐が中隊ごとに配備するという方針を打ち出したのでな、それが我が師団と関東軍、浦塩派遣軍、朝鮮軍には先行で配備された……この効果は諸君らが良くわかっておるだろう!」


「伝令で苦労することなく、第7師団と模擬戦をした時には面白い程連中を翻弄出来ましたからな!」


「そうだ、今回もそれをうまく使いこなして敵を叩くのだ!」


 真崎は並み居る将校を見回すと満足そうにうなずく。居並ぶ者たちは不敵な笑みを浮かべていた。


「荒木閣下がかつて『鬼たちの宴』だと恐れられたが、ならば、我らは鎌鼬となって敵を切り刻んでやろうではないか!」

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