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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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ハイラル縦深要塞

皇紀2588年(1928年) 6月27日 満州 黒竜江省 ハイラル


 満ソ国境近くのハイラルはソ連軍が事実上越境占領している都市である。


 見渡す限り大平原であり、荒涼としたこの地は専ら遊牧民たちの領域と言っても良いが戦場となりつつあるこの地で遊牧を行う者はいない。


 いや、正確には以前は存在した。


 だが、ソ連軍の侵入によって略奪された者が出たことで彼らの財産である家畜を失うことを恐れ大興安嶺や他の北満州地域へ散っていったのだ。


 今やこの地は赤軍兵士や植民してきた(シベリア送りされた)者たちが根付いてロシア化しつつあった。とは言っても、彼らの生命線はシベリア鉄道と接続する東清鉄道しかなく、それもまた軍事優先であり、住民の生活には何ら寄与することはない。


 敵地のど真ん中に設置された強制収容所ともいえるこの地には絶望の表情を浮かべる囚人が今日も生きる糧を得るという名の強制労働に駆り出されていたのだ。


「張作霖は仕留めそこなった様だ……全く使えない連中だ。コミンテルンも使えないスパイなんぞに頼らず祖国のために働くべきだ」


 第81狙撃師団を率いるアレクセイ・コーネフ少将は副官相手に悪態をついていた。


「全くです、師団長殿。張作霖を仕留めそこなった上にスパイ狩りに遭うなど無能もいいところです。おかげでモスクワの想定よりも早く連中がチチハルに進軍するという結果となっております」


「悪口もこのくらいにしておこうか……どこに盗聴器があるか分かったものじゃないからな……それで、敵の規模は?」


 コーネフはウォッカを乱暴にコップに注ぐと一気に呷った。赤ら顔になりながらもその目は少しも酔ってはいなかった。


「5個歩兵師団と6個騎兵師団相当の戦力がチチハル近郊に集結しております。全軍出撃と言っても良いでしょう……想定以上の動員能力に驚きを隠せませんが、所詮は馬賊上がりの連中ですからこの縦深陣地を突破するのは容易ではありません」


「当たり前だ。そもそも奉天軍閥に対するモノではなく、ヤポンスキーどもに対抗するために造ったんだからな。馬賊上がりの蛮族如きに突破などされるはずがない」


 副官の言葉が癇に障ったのかコーネフの言葉は荒い。


 元々、彼の率いる第81狙撃師団と増援の第97狙撃師団は帝国陸軍……関東軍に対抗するためにここまで出張ってきたのだ。


 シベリア出兵は有坂コンツェルンの介入によって戦局をひっくり返され、極東共和国は消滅、沿海州と北樺太を割譲させられたソ連にとってはハイラルは満ソ国境要塞線の出城も同然の代物、真田丸とも言うべき存在だ。


 日本軍がシベリア鉄道沿いに進めば冬将軍とシベリアのツンドラが、東清鉄道沿いに進めばハイラル要塞が立ちはだかるという寸法だ。それが故にヨーロッパロシアからなけなしの機関銃が根こそぎ動員され、ここに配置されている。


「かつての旅順要塞にも勝る装備がここにはあるのだ。かつての露日戦争の様にはいかせん。無論、沿海州の惨敗みたいな真似は絶対にありえん」


「幾重にも構築した縦深陣地と計算されつくした機関銃陣地、砲兵陣地が相互に連携することで鉄壁の要塞であるのは言うまでもありません」


 副官はコーネフの言葉に追従するが、コーネフの表情は険しくなるばかりであった。


「敵もそれくらいの備えをしているだろうが、問題は補給だ……。何年でもここに立て籠もるつもりだが、補給が続かんのでは縦深陣地は何の役にも立たん……」


「それについては……母なるロシアの地を愛国者の血で守るのだ……と返信が来るばかりで……」


 副官の言葉にコーネフの眉間の皺がより深くなった。


「仕方がない、意図的に敵の戦力を水増しして報告を送れ……適宜数字を操作してな……」

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