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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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支那の夜

皇紀2588年(1928年) 6月25日 満州 遼寧省 奉天


 大日本帝国政府が主体的な行動に移れないでいるこの数日の間、満州においては事態が推移していた。


 リヒャルト・ゾルゲらとの繋ぎ要員であるコミンテルンのポーランド人スパイが奉天軍閥によって検挙されたのである。


 張作霖特別列車の脱線転覆現場付近で不審な動きを見せていたこのポーランド人スパイは奉天軍閥の官憲に目を付けられ監視尾行され、その後、奉天市内のホテルに入ったことが確認され、その後、封筒を持ったままホテルのロビーを出ようとしたところ監視していた官憲に逮捕されたのである。


 その際に押収された書類に奉山鉄路や満鉄線の警備状況、関東軍の配備状況、大日本帝国の動員状況が記されていたこと、同時に複数のパスポートや身分証を保持していたことからスパイの嫌疑十分として徹底した拷問が行われたが、彼は結局口を割ることなく拷問に耐えかね死亡が確認されたのである。


 このことから張作霖爆殺の首謀者はソ連、コミンテルンであると確証を得た張学良は奉天軍閥の総力を挙げて出撃を決意、軍を率いチチハルを目指した。


 満鉄本社は傘下に収めていたが独立志向が高い奉山鉄路など満州内の鉄道に特別ダイヤによる輸送を実施、これにより南満州には軍事的空白地帯が生まれたのである。


 無論、これは関東軍と満鉄の策謀であり、奉天軍閥を北満州に追い出すことで遼寧省一帯の治安の悪化を招くことで介入の口実を得るためのモノであった。


 張学良も遼寧省一帯の空白化には一抹の不安と懸念はあったが、全戦力を投入しなければ北満州、満蒙国境の戦力的劣勢は否めず、仕方なく捨て置くこととしたのだ。代わりに北京方面から官憲の増強を行い、奉天など主要都市に配置したが、所詮は寄せ集めでしかなく、現地住民との余計ないざこざを増やすという結果にしかならなかった。


「頃合い良し、帝都に打電せよ……奉天軍閥の去った遼寧省各地で馬賊匪賊の襲撃が多発せり、またコミンテルンによると思われる赤化テロ行為も散見される。満鉄利権の保全のためにも出兵を願う……さて、諸君、諸君が本来為すべき仕事の時間だ! 諸君らの中には世間様に足向けできない稼業から足を洗った者が多く居るだろう。これからは諸君らの稼業をお国に役立てる時だ……同じことをしても、手柄となるのだ、張り切って励んで欲しい」


 甘粕正彦退役大尉はA機関の面々に訓示を垂れる。


 彼らの多くはヤクザ、任侠、博徒とならず者扱いだったが、足を洗う代わりに特務機関として彼らの業を持って禊とせんとしていたのだ。


「親分、それで、俺たちに何をしろと」


「今までと同じだ。内地でやっていたように、阿片を売り捌き、都市や集落にシマを作れば良い。時折、阿片中毒の支那人や満州人を使って鉄道を襲撃させる。また、アカと接触させてワザと赤化工作を行うのだ……馬賊匪賊をけしかけて奉天軍閥の後方を脅かしてやるのでも良い……」


「なるほど、すると、舞台は満州ではなく、北支や内蒙古、中支が狙いということですな」


 隻眼の男は甘粕にニヤリと笑みを浮かべつつ真意を推し測る。


「あぁ、満州は張学良とソ連が勝手に自分たちでやってくれるだろう……先に仕事をされているんじゃ、後始末だけだからな、そんなことして回るのはうちの仕事じゃない……そんなものは関東軍や内地の連中に任せればよい……さて、これが実弾(カネ)だ! 好きなだけ持って行け!」


「ありがてぇ!」


「恩に着るぜ、旦那!」


 ”元”無頼の徒である彼らだったが、一度結んだ契りは決して破ることはない。契りを破るにしても彼らなりに仁義があり、筋を通すというのが彼らのやり方であった。


「さぁ、行け! お前たちが支那の大地で阿片王になろうが表向き商社の若旦那になろうが構わん。だが、果たすべき役割を果たせ!」


「「「おう!」」」


 張学良が奉天を発った日の夜、遂にA機関の各員(忍びたち)は支那各地に散っていった。

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