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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2582年(1922年)

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真相と目を向けるべきもの

皇紀2582年(1922年)6月7日 帝都東京


「ねぇ、旦那様……一つ聞いてよいかしら?」


 神戸での商談を終えて帰京した有坂総一郎は妻である有坂結奈に膝枕をしてもらいくつろいでいた。


「なんだい?」


「何故、ハーバー・ボッシュ法を採用しなかったの?」


 突然の質問に総一郎は答えに困った。


「どうしてそんな疑問を抱いたんだい?」


「質問に質問で答えないでちょうだいな」


 どうやら結奈はハーバー・ボッシュ法を採用しなかったことがとても疑問である様だ。そして、その疑問を解消しないことには解放しないと態度で示していた……そう、膝枕をしたまま総一郎の首に腕を巻いていたのだ……。


「いや、それはだな……」


「それは?」


「あぁ、うん……鈴木商店の金子氏にも話したのだが、ドイツのIG・ファルベンが非協力的だから特許があってもすぐには実用化出来ないという事情があるんだ……」


「へぇ? それで?」


「それでだな……鈴木商店のクロード法や日本窒素肥料のカザレー法は1926~28年には実用化と商業運用出来ていたんだよ。史実では……。それに対して、ハーバー・ボッシュ法の特許を得た各社は1930年代にならないと実用化出来ていないんだよ……」


「なるほど」


 なるほどと言いながら彼女はどうも腑に落ちないらしい。


「それで、旦那様、本当のところはどうなのです? それはあくまで建前と自己弁護でしょう?」


「そんなことないぞ」


 しどろもどろに彼は答える。が……、結奈は腕に力を込めた。


「いっ、痛い、痛い。放してくれ!」


「正直におっしゃい!」


 そう言うと彼女は力を緩めた。


「……私は化学が不得意だ。ハーバー・ボッシュ法が化学ではメジャーだと知っているが、知っているだけで理解しているわけではない。そんなものを説明しろと言われても無理だ」


「……呆れた……それで、実用化が早かった鈴木商店と日本窒素肥料を支援することにしたのね?」


「……遺憾ながら……」


「まぁ、そういうことなら仕方ないわね……」


 彼女は納得がいったところで膝枕をやめ、文机に向かった。


 仕方なく起き上がった総一郎は結奈の後ろから何をしているのか覗き込んだ。


「少し、お勉強をしましょう」


 結奈はそう言うと1時間掛けて総一郎にハーバー・ボッシュ法を教えた。


「じゃあ、石炭でなくてもいいのか?」


「ええ、化学式を見ればわかるけれど、大事なのは水素を効率よく取り出すことよ。そして、その原料はここ関東にはいくらでもあるわ」


「関東にいくらでもある……あぁ、メタン……関東ガス田か……そうなると千葉だな……なるほど」


「正解、旦那様が目を向けるべきは、石炭じゃない。天然ガス、メタンなのよ」


 総一郎が納得したことに満足した結奈だった。

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