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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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関東軍司令部

皇紀2588年(1928年) 6月18日 関東州 大連


 大連、大陸の玄関口にし大日本帝国の大陸経営の根拠地であるこの港湾都市は満州でも第二第三の規模を誇る大都市である。


――大陸の風を感じる。


 大阪商船などの連絡船に乗って内地からやってきた者たちは口を揃えてそう言う何かがこの大連にはあるようだ。


 ここ大連には大日本帝国が満州を経営するうえでの根拠地たる各施設が揃っている。


 行政機関である関東庁、現地駐留軍の関東軍、国策企業である南満州鉄道、そしてフロンティアを求めて進出した銀行や私企業、また増加する居留民、来訪者向けに各種学校や病院、ホテルが整備され、内地よりも遥かに整備されている。


 市内には路面電車網が整備され、市内の移動に困ることはなく、また、満鉄の工場や関係企業なども数多くあり、住民の雇用に困ることもない。


 まさに新天地、理想的な社会がそこにはあった。


 舞台はその日本人社会の中心的存在である関東軍司令部に移る。


――張作霖専用列車爆破、張作霖の生死不明、田中義一特使も消息不明。


――満鉄線にも影響、奉天-蘇家屯間が不通。


 関東軍司令部に凶報が届いたのは張が襲撃を受けて1時間後であった。満鉄側が事態を把握したのは専用列車が定刻通りに到着しないことを不審に思った奉天駅長が乗り入れている奉山鉄路に問い合わせをしたところ「現在、奉山線は不通である……詳細はお答え出来ない」との返答を受け独自に奉山鉄路線周辺に確認に向かわせたところ皇姑屯駅付近に脱線している列車を発見したことで判明したものである。


 直後に張軍閥側から満鉄線の運行停止を要求され、奉天-蘇家屯間の運転を中止したのである。


 奉天駅長は事態を重視し鉄道電話を使い大連の本社に報告、満鉄本社も同様に判断、すぐに関東軍に連絡したのである。


 関東軍も奉天駅に特使である田中を受け入れるため人員を送っていたのだが、彼らも異常に気付くと独自で行動をしていたが軍服がゆえに張軍閥に拘束され身動きが取れず、結果として第一報は満鉄からもたらされたのであった。


満鉄からの連絡を受けた関東軍司令部は文字通り蜂の巣をつついたような騒ぎであった。いや、より正確に言えば、蜂の巣をバットでぶっ叩いて蜂が激怒して飛び回っている……そういうべきかもしれない。


 その空気は司令部全体に感染し、その総元締めたる人物も例外ではなかった。


「クソ、どういうことだ! 満鉄に人をやって情報を探れ! 張作霖の生死は無論、田中特使の安否も確認しろ!」


 関東軍司令官武藤信義大将は事態の進行に内心慌てていた。


 元々、彼と内地参謀本部、永田鉄山大佐がグルになって張の始末を検討し、その準備を進めていたが、そのシナリオにない事態が発生したことでいつもの冷静さを失っていたのだ。


――これは一体、どういうことなのだ……。我が関東軍はまだ一兵も動かしておらん。そもそも、長春でソ連特使とともに始末し、動いたソ連を諸共討伐する予定であったというのに……これでは……。


 内心の焦りは彼に正常な判断力を失わせ、ただその焦りを増すばかりであった。


――ここは冷静にならねば……。


「副官! すぐに参謀と各師団長、連隊長を集めよ。出撃準備も同時に発令する……内地参謀本部に不測事態発生と打電、我これより行動開始の予定なり、朝鮮軍、浦塩派遣軍にも行動開始を求む……急げ!」


 武藤は腹を括ると即座に副官に指示を出した。


 行動予定とは異なるが、元々いつでも出撃出来るように準備は行っている。一切の怠りのない準臨戦状態である関東軍はいつでも打って出ることが出来る状態にあった。


「閣下、我が関東軍はいつでも出撃は可能ではありますが、出兵の大義がありません。また、大元帥陛下の命もなく兵を動かすのは統帥権干犯の恐れあり……如何に閣下とて軽々しく兵を動かすなど申されてはなりません!」


 副官は軽挙妄動を控える様に進言をしてきた。彼は武藤に副官として長年仕えていることもあり、大正末期の政変における統帥権問題のそれを思い出しゆえに武藤の判断に異議を唱えた。


「文面を変え、兵を出す体裁を整え、満鉄附属地の居留民の保護を訴える内容として、緊急性があると訴えかけるものとしたく存じます……さすれば汚名を被ることなく兵を動かす大義が手に入ります……。ですが、戦争は軽々しく始めるものではありません」


「ははは……軽々しく始めるものではないか……」


 武藤は副官の進言で少しばかりだが落ち着きを取り戻し笑みを浮かべる余裕が出来た様だ。


「そうだな、戦争なんてものは軽々しく始めるものじゃない……だが、どうだ? その言葉の逆を考えたことはあるか?」


「と、言いますと……」


「あぁ、思い付きや博打みたいに始めるものではないな。だが、十分に準備をして起こす戦争はその限りではないと思わんか? それも、長期的に国家の利益を見据えた上で準備が出来た状態で、大義名分を得たなら……」


「まさか!?」


 副官は武藤の言葉に隠された真意を感じ取った。そして、その先に続く言葉をすんでのところで飲み込んだ。


 つまり、ここ最近、内地から届く最新の装備や増強された新設の機動装甲師団、装甲列車、列車砲はそのためのものであると……。鳴り物入りで関東軍や朝鮮軍などに配備されたそれらが事態の進行に備えたものではないと……。


 意図的に増強され、来たるべき日に備えてあり、それがついに来たと……。


「くれぐれも勘違いしないで欲しいが、私は張作霖を殺害(やれ)とは言っておらんし、その為に命を下してもいない。他の誰かの意思で行われたのだろう。だが、張作霖は遅かれ早かれ処分される運命にあったのだとそれだけは言える。だからこそ、此度のような事態が起きておるのだ……」


 武藤はそう言うと副官に職務を果たすように促す。


「小官は閣下を信じ、ついて参ります……では、内地への打電は小官にお任せください」

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