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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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決戦兵器

皇紀2588年(1928年) 5月25日 支那 山東省 青島


 第一次中原大戦と後に呼ばれる中原における北伐軍と北洋政府軍の戦いは開封開囲によって終幕した。両軍ともに動員兵力の不足という問題によって決め手を欠く形となりそれが結果として北洋政府軍の黄河決壊に繋がった。


 これによって中原の確保に失敗した北伐軍は威信低下を防ぐため洪水被害のない山東省への進行を開始するのである。


 総兵力、中央軍残存兵力と征南軍を結集し5個師団相当。徐州から済南を目指す中央軍、臨沂から青島を目指す征南軍だが、彼らの士気は著しく低下し、軍隊としてのモラルはさらに低下していた。


 途中の村や集落は尽く略奪収奪され、金品だけでなく家畜も残らず奪われ、抵抗の有無を問わず男は全て殺されるか奴隷同然にされ、その多くは移送中に虐待を受け死亡していた。また、老若問わず女は慰み者にされ、特に容姿に恵まれた者は軍閥の有力者の妾とされたのであった。


 これは外国人であっても例外ではなかった。いや、外国人は真っ先に狙われ全てが殺されたのである。その多くは退避勧告に従わずに支那人民を信じて残った者だった。そしてアメリカ国籍の報道関係者が多かった。


 命からがら逃げ延びた者たちからの情報で危機が迫っていると判断した各国は権益の集中する済南、青島結ぶ鉄道沿線などからの退去を正式に命じた。これによって持てる限りの財産を積み込んだトラックや特別列車が運行され、その多くは北京、天津方面に送られた。各国の最後の拠点は天津の租界であったのだ。


 南京事件や上海での一連の事件によって居留民たちだけでなく列強の駐留軍も北伐軍は人間の集団、軍隊ではなく、事実上の魔獣、魔人、モンスターの襲来と認識していた。


 いや、再び進出してきたドイツ人居留民やドイツ国防軍現地駐在部隊は欧州大戦以前に流布された黄禍論が事実であり、まさに今、牙を剥いていると認識し、毒ガスの使用を青島の列強連合軍司令部に具申し、実際に持ち込まれていた毒ガスの提供をしたのである。


 列強連合軍司令部はドイツが毒ガスを持ち込んでいたことに非公式に非難したが、だが、数の上で劣勢である列強連合軍にしてみれば魅力的な兵器であり、尚且つ、効果絶大であることを身をもって知っているだけに提供された毒ガスの使用については切り札として考えていた。


 北洋政府軍も黙って北伐軍の進撃を許していたわけではなかった。


 中原大戦では出遅れた直隷軍閥が泰山付近に進駐、ここに陣を敷き北京からの後詰を得て曲阜へと進攻し、ここで北伐軍中央軍と衝突、激戦を繰り広げていた。


 だが、北伐軍も後詰を投入したことで結局は曲阜は兵力に勝った北伐軍によって陥落し、直隷軍閥は泰山に撤退するに至った。


 北伐軍征南軍は無人の荒野を行くが如く青島へ向け快進撃を続けていた。もっとも、各地で略奪の限りを尽くしていたこともあって進撃速度は遅いのであるが。しかし、略奪によって士気の高まった彼らはまさに比較的統率が取れている蒋介石の率いる中央軍と違い、まさに魔獣の集団暴走(スタンピード)だった。


 23日、ここにきて青島の列強連合軍司令部はドイツの毒ガスを全量投入することで魔獣の集団暴走(スタンピード)を食い止め、兵力の均衡状態をつくり、北伐を中断させると決意したのである。


「毒ガスを先制使用するっだって? 面白いことを言うね。流石欧州人だよ。支那人なんて人間だと思っちゃいないから躊躇ない。恐れ入る……だが、今のままでは効果が薄い。折角使うなら、効果的に使わないとな」


 青島郊外の飛行場で教導飛行団の司令官を務める石原莞爾中佐は言い放つ。


「連合軍司令部にありったけの金塊を敵侵攻線上のここに運び込むように打診してくれ。なに、あとで必ず返還する。急いで運ばせろ、あとはうちの飛行隊にビラをばら撒かせてここに集まるようにするから任せろと伝えるんだ……それとどうせ塹壕戦なんてしねぇんだ、空からばら撒くから毒ガス全部寄越せって言って来い!」


 石原は副官にそう告げると滑走路に向かった。


 彼が向かう先はウーデットサーカスだ。魔獣の集団暴走(スタンピード)を食い止め殲滅すると石原は彼らに命じなければならないからだ。


「諸君、いよいよ初陣だ。輝かしい初陣ではあるが……諸君らにとっては不名誉を背負ってもらわねばならん。これから我が教導飛行団は魔獣どもを退治しに行く。そして、一兵も生かしてこの青島から生かして返すな……まぁ、生きて帰れるとは思わんが……」


「ヘル・イシワラ! それはどういうことだ? 爆弾を積んで航空攻撃するのでは数万の兵を食い止めるなど出来ない……ここにあるのは殆どが戦闘機だ……例の新型もそれほど変わらん」


 エルンスト・ウーデットは作戦に疑義を呈する。その指摘は適切だった。だが……。


「あぁ、問題ない。金塊に群がる魔獣どもに毒ガスで攻撃するのだからな……連合軍司令部は毒ガス使用でケリを付けると腹をくくったのだ。貴様の国が持ち込んだ毒ガスが役に立つということだよ……全責任は俺と連合軍司令部が持つ。貴様らはいつも通りにやれ、それ以上は望まん……今回に限り、命令不服従を許可する。毒ガス使用に躊躇いがある者は処罰せんから申し出ろ」


 石原は毒ガス使用というそれに対して拒否権を彼らに与えた。戦闘になれば敵を殺すのが仕事の軍人ではあっても、今回は無差別虐殺をする類のものである。良心が痛むものがあるだろうとの配慮であった。

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