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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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山東出兵

皇紀2588年(1928年) 3月31日 帝都東京


 蒋介石率いる北伐軍の北伐が3月28日に再開された。彼は北伐再開を宣言すると同時に北伐軍に参加していない山東省、山西省、湖南省に割拠する軍閥の討伐を開始したのである。


 山西省や湖南省には日本権益が多くはなかったが、沿岸部にある山東省には日本権益が多くあり、青島に2万、済南には1万もの居留民、駐在邦人がいた。また、済南と青島を結ぶ膠済鉄道は日本権益の最たるもので借款によって運営される鉄道で、同鉄道沿線には日支合弁企業やその経営傘下の鉱山が多数あったのである。これらが侵害された場合、被害総額3億円から5億円にも及ぶものであった。


 史実において発生した第二次山東出兵での在留邦人は約2万弱、被害見積もり1億5千万円であったが、この世界ではそれに倍するものになっていたのだ。


 史実以上に山東省における投資が増えた理由は簡潔に述べるならばシベリア出兵の成功によって味を占めた資本家や企業が有望な資源地帯、植民地として山東省に目を付け、進出したことにある。


 また、軍事的な意味合いもあったのだ。山東省は日本の租借地がある遼東半島関東州の対岸であり、救援が数日以内に到達出来る距離にあり、関東軍の来援があれば権益を守ることも奪還も出来ると踏んでいたからだ。


 同時に関東軍もこれを実質的に後押ししていた節がある。南満州鉄道は度々関東軍の意向に逆らい、国策企業であるが関東軍とは対立する関係でもあったからだ。そのため、関東軍にとって都合の良い存在でもあり、共同歩調を取る企業や資本家とのつながりは重要であったのだ。お互いの思惑が合致したことで、非公式に有事の際の山東出兵が約束され、それによって山東省への進出が進んだのである。


 国民の中のシベリア出兵の大逆転劇は過大に評価され、実態以上に無敵神話が根付いてしまった結果、虎の威を借りる狐状態の山東省進出が起こってしまったのであった。


 それでも、空手形でありながらもそれが有効に機能していた時期は良かったのであるが、北伐軍の従わない勢力は皆滅ぼすという方針によって地元軍閥の動揺、人心の乱れは在留邦人の不安を増大させ、彼らは関東軍だけでなく、本国、朝鮮軍にも山東出兵を陳情し、実際に北伐軍が行動を開始した28日以後、日本側の被害は出ていないものの、地元軍閥による住民への物資徴発や徴兵が始まったという報告がもたらされると参謀本部は第二部長松井石根中将の進言により出兵が決定された。


 松井が出兵を決断した理由は史実とほぼ同様であった。


 1、北伐軍の統率が欠くこと

 2、命令不徹底による匪賊と変わらない状態

 3、赤化勢力が末端には存在し思想的にも危険

 4、昨今の列強との関係悪化によって事実上の交戦勢力であること


 これらによって、動揺はしているものの領内の統治が比較的安定している北洋政府と違い、不測の事態しか起こりようがない北伐軍の動きを牽制し、同時に在留邦人の青島・大連への撤退を支援させるため、天津に駐留する支那駐屯軍を済南に転進させ、生命線である膠済鉄道の確保を行うことを決定したのである。


 また、旅順に移駐している所沢教導飛行団の青島移駐を行い、山東省各地における偵察飛行、上空直掩、威嚇攻撃を実施させることとし、指導教官であるエルンスト・ウーデットを少佐待遇によって特別任官しその指揮官として航空作戦の指揮を命じたのである。


 航空隊を引き抜かれるにあたって関東軍からは関係の深い石原莞爾少佐(中佐昇任予定)を派遣し、作戦指揮にあたるようにと辞令が出された。これは関東軍において石原の行動に手を焼いた関東軍司令官武藤信義大将による追い出し工作でもあったが、石原本人は至って気にしていなかった。


「俺の指揮出来る兵が手に入ったんだから自由にやれってことだろう」


 と副官にそう言うとウーデットともにその日のうちに青島へ向かったのである。


 そして31日には天津の支那駐屯軍も済南に到着し、英仏の北支駐屯部隊も済南、青島に布陣し、北伐軍を迎え撃つ準備は整った。

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