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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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策士策に溺れる

皇紀2588年(1928年) 3月18日 帝都東京


「最近、満州に……関東軍と浦塩派遣軍に鉄道連隊が引き抜かれた……あと所沢の航空隊も旅順に移駐している。明らかにこれはオカシイ……だが、今、参謀本部を仕切っているのはあの英雄将軍と永田鉄山だ。あとは石原莞爾が関東軍に赴任しておるからな……航空隊は石原が引き抜いたと聞いている」


 東條英機大佐は眉間にしわを寄せつつそう言うとタバコに火を付け燻らせる。明らかに不満と何かしらの意図をもっての行動だと認識しているようである。


 この場にいる転生者は4人。東條、有坂総一郎、平賀譲少将。あと、顔を出していない有坂結奈。


 その4人だけであれば東條はこういっただろう。


――参謀本部は関東軍と結託して満州事変を起こすつもりだろう……。それも前世よりも大規模に。石原は本能的にそれを察知しているようだ……。


 と。


 だが、この場には転生者ではない人間たちが多く居る。その中で、左様なことを言えば、それに近いことを示唆すればどうなるか……。恐らく、この場にいる者たちの多くは参謀本部と関東軍の行動を是認し、支援するかのような行動に出るだろう。


 東條、総一郎や平賀も基本的には満州事変は起こるものとして行動しているし、その準備も進めて来ていた。だが、あくまでそれは自分たちが主導しての段取りであった。しかし、現実は彼らの思い通りにはならなかった。


「どうやら、陸軍の技本や有坂コンツェルンの研究開発と量産化準備は参謀本部や関東軍に上手く利用されてしまいましたな」


 阪急総帥小林一三は笑って言う。


「どうやら有坂君はやり過ぎた様だ。それを彼らに利用されてしまった。裏で企むというのは程々にせんといかんということだね……東方会議で永田鉄山大佐と随分やりあっていたから意趣返しもあったのだろうが、なるほど、彼らは油断ならんね」


 鈴木貫太郎大将は小林の言葉に頷きつつも永田らに警戒心を示す。


 政府を裏で動かす有坂邸謀議ではあるが、彼らの裏での動きが気に入らない勢力は多くある。そして、それゆえ反発する勢力は結託し、手ぐすねを引いて隙を突く。


 三大財閥とは直接的には利害の不一致ということが現時点ではないことで関係悪化ということはないが、それでも財閥からは警戒されている節も感じられるだけに謀議に参加する財界人たちのバランス感覚は絶妙と言えるだろう。


 だが……。


「やはり、有坂は動き過ぎなんだろう。以前にも言ったが、自重せよ。貴様の企みは表面化し過ぎる」


 東條は釘をさすように言う。


「東條さんもそう言いながら、技本の方たちとのパイプ役をしてくださっているじゃないですか、同罪ですよ……ですが、確かに鉄道省みたいにあれこれやっても邪魔されないのと違って陸軍省や海軍省には敵が多過ぎますな……」


 総一郎は反省の様子を見せるが……。


「有坂君が自重などするように思えんし、今まで自重が続いたこともないからそこまで期待はしておらんよ……だが、君の企みは帝国のためという意思によるものだから否定も出来んしな……まぁ、なんだ、財界同士で協力出来る部分は手を差し伸べるから、軍部の方との接触は控える様にする程度で良いのではないかね?」


 箱根土地の堤康次郎が笑いながらそう言うと財界人たちは揃って頷く。


「信用がないですね……」


「そりゃあ、そうだろう。君が自重などしておったら鉄道省があんな風にはならんだろうし、商工省が統制主義で敵対することもない。まして、陸軍省で三国志な状態になんてならんさ」


「全くだ」


 財界人たちは好き勝手言っている。総一郎は憮然としているが、だが、心当たりがあるだけに言い返すことは出来なかった。

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