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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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それぞれの縄張り

皇紀2588年(1928年) 3月18日 帝都東京


 鉄道官僚、商工官僚は結託して中支の鉱物資源の確保を狙っていた。


 特に八幡製鉄所に送られる鉄鉱石の多くを供給する大冶鉄山は24年には年産68万トンもの鉄鉱石産出を記録している。この大冶鉄山は大日本帝国にとっては生命線とも言うべき存在であった。


 遡って08年には借款によって漢陽鉄廠(製鉄所)・大冶鉄鉱(鉄鉱石)・萍郷炭鉱(石炭)を合併させ、湖北・江西省にかけての揚子江流域一帯に原料から製品までを一貫経営で行える製鉄の一大拠点の設置に着手している。


 これによって、中支の鉱工業は日本の影響が色濃くある状態であるが、ここ数年の支那の情勢によってこの権益の保全に大きく支障が出て来ている。特に南京の蒋介石と武漢の共産政権の衝突により、大冶鉄山などは大きく影響を受け、出荷停止、操業停止という状態にある。


「昨今の膠着した情勢によって中支の帝国の利権は事実上喪失状態になっている。官僚たちがこれの確保に躍起になるのは道理ともいえるだろう……だが、ここで手を出せば泥沼の戦に踏み込むことになる……」


 軍令部長鈴木貫太郎大将はぽつりとこぼす。


 中支の権益の確保は国益に直結する。だが、列強と協調して出兵することが出来ているなら兎も角、単独での介入というのはシベリア出兵と違い、明確に侵略的性格の強い戦争だと言える。


 侵略そのものが不正義だ、不公正だ、悪だなどと言うくだらない議論はここでは無用である。所詮は戦争を仕掛けられる隙を見せ、自国の防衛すらままならない連中こそが悪なのだ。


 だが、今の様に列強が協調して上海付近に展開し、睨み合いをしているところで抜け駆けをするような真似をすることは他国の嫉妬と恨みを買う。それは大日本帝国へ付け入る隙を与える理由にしかならない。


「海軍も陸軍も理性ある統制が出来ておりますから官僚と一緒になって支那への出兵などと言いだすことはないでしょう。ただ、問題は満州です。権益を侵害する張作霖だけでなく、露助どもも出張ってきている。先の東方会議で和平会談という話が出ているけれど、それとて誰かが先に引き金を引くためのお膳立てではないかとすら思える……むしろ危険なのはこちらでしょう」


 有坂総一郎は指摘する。


 実際に、27年夏の東方会議以来、陸軍省、参謀本部は軍備拡張を志向し、宇垣軍縮をより強力に推し進めている。騎兵連隊に至っては全てが解体され、揃って予備役除隊させられている。そして、それによって浮いた予算を戦車やトラックの調達に回している。


 それだけでなく、輜重部隊までもが馬匹からトラックに置き換えされている。そして、騎兵連隊や輜重部隊の馬匹は除隊と同時に東北や北海道に送られ、現地の農耕馬に転用される始末である。


 この事態に総一郎は何かが起きていると感じていたが、東條英機大佐はその動きを好ましく考えていたことで具体的に何か行動を起こすことはしていなかった。


「先日の富士演習場における演習は明らかに戦の準備の総仕上げという感じがするものだった……それだけに関東軍や浦塩派遣軍の動向が気にならざるを得ないのですが……東條さんはこれに何か掴んでいますか?」


 総一郎は内地特殊演習のそれを絡めて質問する。


 財界人たちもまたこれに同調し、東條に視線を向ける。特に出光佐三の視線は強かった。彼は満鉄との付き合いもあり、気掛かりであるところも大きかった。


「最近、満州に……関東軍と浦塩派遣軍に鉄道連隊が引き抜かれた……あと所沢の航空隊も旅順に移駐している。明らかにこれはオカシイ……だが、今、参謀本部を仕切っているのはあの英雄将軍と永田鉄山だ。あとは石原莞爾が関東軍に赴任しておるからな……航空隊は石原が引き抜いたと聞いている」

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